１４
黄瀬との一騎打ちをやめ、黒子にパスを出し始めた火神。二分のインターバルを挟んで随分と落ち着いたようだ。ボールは黒子からまた火神へ忙しく動く。やはり黄瀬は黒子の動きは読めないようで黒子の変則パスと、頭の冷えた火神との連携に虚を突かれたらしい。インターバルで提案された火神の作戦の効果は十分だと言える。日向の３Ｐが決まったこともあり、状況は一転し始めた。
「二人でなら戦える」
火神の言葉はやはり輝いて見えて、なぜか心臓のあたりに深く突き刺さった。ほんの少し昔のことを思い出す。先輩がいたときはまだよかった。オレが主将になってから、どこかが狂い始めた。オレはあいつらと対峙した時、どうやって戦っていただろうか。
一瞬ざわめいたコートに伏せていた視線を上げる。そこには、黄瀬のマークにつく、黒子がいた。
「どーゆーつもりか知んないスけど……黒子っちにオレを止めるのはムリっスよ！！」
黄瀬が黒子を抜き去った直後、火神がヘルプに入る。確かに黒子は黄瀬を止められない。はっきり言ってしまうと、火神ですら止められない相手を黒子が止められるわけがないのだ。だが、二人でなら。
「違うね、止めるんじゃなくて」
「獲るのよ！」
黄瀬が火神に怯み止まった一瞬で、黒子は後ろから黄瀬のボールをはたき落とした。
「なっ！？」
「オマエがどんなすげえ技返してこようが関係ねぇ、抜かせるのが目的なんだからな！」
叫んだ火神がそのままダンクを決める。また一歩、差が縮んだ。
予想外の黒子の動きに海常側に緊張が走る。黄瀬も焦っているのか思考が単純になったように見える。
「そんなの抜かなきゃいいだけじゃないスか……誰も言ってないスよ、外(３Ｐ)がないなんて！」
黄瀬が飛ぶ。３Ｐのモーションに入り、ボールを放つ刹那。同じようにジャンプした火神が頭上のボールを叩き落とした。
横の動きは黒子が、そして縦の動きは火神が制する。つくづくいいコンビだと思う。
互いの足りないところを補い手を取り合う。それはきっと信頼していなければできないことで、オレはそれに気がつかなかったのだ。一人で突っ走って空回って、仲間の声を撥ね退けて、自分だけの力を求めた。それでは勝てないのも当然だ。ああ、彼らには、悪いことをした。ここまで気づいておきながら、そう簡単には考えを変えられない自分に嫌気が差す。
「行くぞ！速攻！！」
火神が叫ぶのを聞きながらコートを睨みつける。すると黄瀬が火神を止めるために勢いよく体を捻って、黒子の頭に肘が入った。焦りから黄瀬の注意が散漫になっていたことと、黒子の影の薄さが原因だろう。
そういえば、こんなシーンもあった。原作のことがすっぽり頭から抜けていることに随分頼りない記憶だと舌を打つ。一年に救急箱を持っていき、黒子を運んで来られるように指示する。今は自分のことを考えている場合じゃない。
額から血を流す黒子は相田に任せて、オレはアップを始める。ジャージを脱ぐと現れるユニフォームには６の文字。ようやく、オレの出番だ。