花宮成り代わりin誠凛 | ナノ
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体育館を横切るネットが引かれ端へ寄せられ海常の部員がコートを整える。今からは全面コートを使っての試合になる。開始早々に火神がリングをぶっ壊したのだからそれも仕方ないことだろう。向こうの監督には悪いことをしたかもしれない。怒り心頭に黄瀬を投入する監督さんの顔はそれはもう怖かった。いい気味だとは思うけれど。

「それでは試合を再開します」

審判の声に選手が位置につく。黄瀬は歓声を上げるギャラリーの女子たちに手を振って笠松に蹴られていた。さすがはモデル。あまりいい気はしない。
笠松のスローインから始まり、小堀、森山へとボールが回る。黄瀬のマークをしていた火神を、笠松にボールを戻した森山がスクリーン。ボールはフリーになった黄瀬へと回り、黄瀬は得意の模倣でさっきの火神のダンクを披露してみせる。ゴールこそ壊れなかったが、威力は火神より上のように思えた。揺れるネットの下で黄瀬が挑発的な笑みを浮かべる。

「オレ、女の子にはあんまっスけど……バスケでお返し忘れたことはないんスわ」
「……上等だ!!黒子ォよこせ!!」

火神が叫ぶと同時に黒子がボールをタップする。それを受け取った火神が素早く二点を奪い返した。そのまま恐ろしいスピードで試合が展開していく。入れては入れられ、入れ返しを繰り返す。これは、あまりよくない。

「相田」
「ええ、わかってるわ」

隣に座っていた相田が頷いてタイムアウトを申請しに行く。
開始三分にして16対17。ハイスピードなんてレベルの話じゃない。双方のディフェンスはちゃんと機能しているが、それを上回る力で火神と黄瀬がゴールを繰り返しているのだ。加えて点だけ見ていると力は拮抗しているように思えるが、黄瀬以外の四人も相当できるようで、誠凛が不利なのは明らかだ。このまま試合を続けても火神以外がついていけない。火神も自分の技を次々と模倣する黄瀬に躍起になっているところがある。これではいつまでたってもジリ貧だ。

「誠凛TOです!」

試合が中断され選手が各チームのベンチに戻る。

「一年、タオルとドリンク配れ」
「は、はい!」

ぼーっと座ったままだった一年三人組を動かせてベンチに座った日向たちを見る。改めて言うまでもないが、とにかく疲労がすごい。まだ開始五分とは思えない汗の量だ。普段からするとほとんど倍くらいのスピードなのだから無理もない。

「とにかく黄瀬くんね。火神くんでも抑えられないなんて……もう一人つける?」
「なっ…ちょっと待ってくれ…ださい!!」
「とは言ってもな……実際黄瀬を抑えなきゃどうにもならんし……」

火神の敬語もどきはスルーして、数人があーでもないこーでもないと声を上げる。黄瀬を止めるのは絶対条件として、けれどここで黄瀬のマークを二人に増やすと黒子は例外とするから、実質それ以外の四人を残りの二人で抑えなくてはならなくなる。が、それもほぼ不可能で、二人がフリーという状況に陥ってしまう。これは致命的な差だ。相田もそこには行き着いていたのだろう、声が少しだけ冗談めいていた。
短い言葉の応酬に頭を抱え始めたとき、黒子が口を開いた。

「……いや、活路はあります。彼には弱点がある」

全員が黒子に注目して、言葉の先を促す。けれど黒子の話によるとそれは弱点と呼べるほどのものではなく、それ以上に黒子のミスディレクションが予想外のハイペースによって効力を失い始めているらしい。そういえばこんな設定もあった。

「そーゆー大事なことは最初に言わんかーー!!」
「すいません聞かれなかったんで……」
「聞かなしゃべらんのかおのれはーー!!」

突然の告白にキレた相田が黒子に技をかける。ぷるぷるしているが重要なことを言わなかった罰だと思って重く受け止めるといい。助ける気はさらさらない。

「TO終了です!」
「黒子くんシバいて終わっちゃったーーーッ!!!」

黒子をシめる相田を眺めて貴重な二分間が終わりを告げた。元より楽にいくとは思っていなかったが、これはいささか前途多難すぎやしないか。



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