花宮成り代わりin誠凛 | ナノ
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練習試合当日、黄瀬に案内されて海常高校の体育館に入ればどうやら試合はコートの半面でやるらしい。初っ端から相田の笑顔が怖いが、是非これ以上煽ってくれるなと切に思う。相手側のふくよかな男性監督(大分オブラートに包んだ言い方だが)は完全に舐めきってくれているらしい。格下だからといって、油断は大敵だと教えてやろう。予定では今回、オレの出番はないのだけれど。

「それではこれから誠凛高校 対 海常高校の試合を始めます!」

審判の掛け声にスターティングメンバーの十人が小さなコートに整列する。今日は本格的な試合形式で始めての伊月始動型だ。よってオレはベンチスタート。何もなければベンチで海常高校のスカウティングに勤しむことになる。
すっと目を細めて海常を見る。ノートやパソコンは必要ない。重要なことは全てこの頭に記録できるからだ。キャプテンの笠松幸男からベンチスタートの黄瀬までを見渡して、開始の合図がないことに気づく。

「……や、あの……だから始めるんで、誠凛 早く五人整列してください」

……黒子か。なんだか一気に出鼻を挫かれた気分になる。黒子が悪いわけではないとはわかっているが、やっぱり気が削がれてしまう。「あの……います五人」と控えめに審判のすぐ隣で手を挙げた黒子に相手チームが驚いて、オレの隣に座る相田ははあ、と溜息を吐き頭を抱える。
だが揃っているなら、と審判はすぐに気を取り直して試合開始のジャンプボール、ティップオフを行う。

「…………」
「どしたんスかカントク……?」

それぞれのポジションについた、主に海常の選手を見ていた相田に福田が声をかけるが、相田は絶句してその声に答えることはできそうになかった。相田が対戦相手を見てまずすること。それは相手選手の身体能力を視ることだ。つまりフィジカルは完全に負けているかもしれないということか。

「っし!んじゃまず一本!キッチリいくぞ!」

先制は向こう、ボールは全国でも有数の好PG、海常の笠松に渡った。笠松は状況を見ながらどのようにボールを運ぶかを思案しドリブルする。が、こちらには黒子がいる。今まで共に練習してきて少しずつわかってきたのだが、黒子がこの機を逃すはずがない。

「なっ……にぃ〜〜〜!!?」

笠松からボールをスティールした黒子が走り出す。突然現れ虚を突いてきた黒子に笠松は一瞬驚いたようだが冷静に見極め黒子に追いつく。さすがに身体能力が平均以下の黒子が笠松の足に勝てるはずがない笠松が黒子の行く手を塞ごうとして、黒子が火神にパスを出した。

「くらえ!!」

大きくジャンプした火神が黒子から受け取ったボールをゴールリングに押し込む。バキャ!と大きな音がして、普段なら少しだけリングに手をかけて宙に浮く時間があるのに、火神はそのまま着地した。そして、その手にはオレンジ色のリング。

「お?おお?」
「……おおおぇぇ〜!?ゴールぶっこわしやがったぁ!!?」

……さすがのオレも、これは予想外だった。確かにこのゴールは目で見てわかるほど年季が入っていたし火神も遠足前の小学生並みには絶好調だった。が、それでもゴールを壊すことなど普通はない。それほどまで火神のパワーがすごいということか。ダンクシュートをできないオレが言うのもなんだが、オレにはゴールを壊せないだろう。規格外なのは才能だけではないらしい。のんきにリングを持ったまま駄弁る黒子と火神に驚愕を通り越していっそ笑えてきた。

「どーする黒子、コレ」
「どーするって……まずは謝ってそれから……」

火神がリングを指にかけ遠心力を利用して回し挑発的な笑みを浮かべ、黒子が変わらない無表情で海常のベンチを見て言った。

「すみません。ゴール壊れてしまったんで全面側のコート使わせてもらえませんか」

体育館中が驚きに包まれる。相田もうちのメンバーも海常の選手も監督も反対側のコートで練習していた部員も、驚きに目を見開いて硬直する。その中で、オレと黄瀬だけが不適な笑みを浮かべていた。

「……ふはっ、初っ端から面白そうじゃねえか」



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