花宮成り代わりin誠凛 | ナノ
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「それじゃあ、オレは着替えてくるから」
「あ、はいッス!ありがとうございました!」

体育館まで黄瀬を誘導し、オレは体育館から少し離れた部室棟に向かう。今頃体育館では黄瀬にの来訪によって騒ぎが起きているのだろう。部室で手早く練習着に着替えてまた元の道を戻る。体育館にはいつもは全くいないギャラリーができていて、黄瀬効果は絶大だと思った。
女子の間を縫ってなんとか体育館に入るとすぐに相田と目があった。

「ごめん、遅れた」
「大丈夫よ。それより……」
「黄瀬か……」

ブレザーを脱いでいくらかラフな装いになった黄瀬が着地する。その足元には火神が呆然とした様子で転がっていた。見たところ黄瀬に勝負を挑んだ火神が返り討ちに合ったという感じか。試合前に負けるというのはメンタル面にも響くから勝負するのは一対一でもあまりいい判断だとは言えない。それもエース対決ならなおさらだ。火神のことだから負けてもさらに燃え上がるだけだろうと心配していないが、そうまでしても、相田は一度黄瀬の力を見ておきたかったのだろう。まだ公式戦の記録がないため今見るべきとでも思ったのだろうか。中学のときの記録ならいくらでもあるだろうが、黒子の反応を見る限りそれもあまり意味のないものらしい。キセキの世代は急速に進化している。

「ん〜これは……ちょっとな〜」

首の裏をかきながら黄瀬が振り返りオレたちを眺めてからすっと黒子を見据えた。

「こんな拍子抜けじゃやっぱ……挨拶だけじゃ帰れないスわ。やっぱ黒子っちください。海常(ウチ)おいでよ、また一緒にバスケやろう」

誰かの息を呑む音がして辺りが驚愕につつまれる。黄瀬の視界には、黒子しかいない。

「マジな話、黒子っちのことは尊敬してるんスよ!こんなとこじゃ宝の持ち腐れだって!ね、どうスか?」
「そんな風に言ってもらえるのは光栄です。丁重にお断りさせていただきます」
「文脈おかしくねえ!?っそもそもらしくねっスよ!勝つことが全てだったじゃん!なんでもっと強いトコ行かないの?」
「あの時から考えが変わったんです。何より火神君と約束しました。キミ達を……"キセキの世代"を倒すと」

面食らう黄瀬に黒子が表情を変えず、けれど力強く言う。
打倒キセキは大いに結構だ。いろいろと言ってくれている黄瀬の泣きっ面を拝めるのならそれでもいいだろう。だが、日向たちの顔を見ると思う、馬鹿にされているのは誠凛なのだと。黄瀬はきっとオレたちのことなんて微塵も気にしてなくて、日向たちのことなんて丸無視なわけで、それは少しムカつく。これ以上キセキの世代を嫌いになることなんてないと思ってたけど案外まだ上にいけるらしい。こんなことで上をめざしてもしかたないけれど。オレはせめてもと相田の額に浮かんだ青筋が切れないことを願う。

オレはまだ黒子に対していい感情を持っていないし、火神にだって面と向かって頼るだなんて言えない。"キセキの世代"に一方的に執念を燃やしているのは、この部活ではきっとオレが一番だ。勝てないことはわかっている、そもそもの才能が違うのだから。それでも勝ちたい。勝ちたいから、キセキに近い才能を持っている火神やキセキとは別の方向に才能ではなく唯一を持っている黒子に頼るのは、辛い。

「ぜってー倒す!」
「負けません」

真っ直ぐな視線が黄瀬を貫くようにして伸びる。声にも眼差しにも、迷いはない。こいつらなら、きっとキセキの世代を倒してしまうのだろう。原作を知っているからじゃなく、そう思った。でも、だからこそ、こんなに頼もしい背中をした二人を頼れないことが酷く辛い。
だから、自分勝手でどうしようもないオレが心から二人を、光と影を頼る覚悟を決めるまでは、誠凛というチームを媒体にして。



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