花宮成り代わりin誠凛 | ナノ


「これで終わります。何かある人は各自で前まで聞きにきてください」

黒板の前に立ち今しがた使った書類をまとめながら言う。教室で退屈そうに話を聞いていた生徒たちは、オレが合図をするとゾロゾロと退室していった。全員が出て行ったところで顧問の教師にバレないように溜息をつく。最近のガキは委員会終わりに挨拶もできないのか。ちょっと一言「さようなら」とか「お疲れ様でした」とか言うだけで評価が上がるというのに。いや、評価が上がるのはこの場合であって社会人になると挨拶が出来ない人間はまず生きていけないからな。オレも前世は高校までしか行ったことがないがこれはわかる。つまりおまえら挨拶しろということだ。
書類を手に教師に挨拶して部室に向かう。図書委員会は週一で朝昼放課後のどれかの当番をすればいいだけだから楽だ。ちなみにオレは教師から生徒会長にと推薦されていたが面倒だから断った。もちろん教師の前では大人しくしているため表向きには部活が忙しいからと。その代わりと言ってはなんだが図書委員会の委員長になった。まとめ役をしているとこの先評価に関わってくるから、していて損はない。

体育館が近づいて日向の号令に続いて部員の声が聞こえる。こういう時はいつもはやくバスケがしたいと思わず駆け足になってしまう。部活中は体育館の扉は開きっぱなしのことが多いからか外でも音がよく聞こえるせいだ。
大きな笛の音の後に相田の声が聞こえて、ふと相田が組んできた練習試合について思い出した。数日前スキップで体育館にやってきた相田から出た言葉は「キセキの世代」だった。最初は、黄瀬だったと思う。肝心なところで自分本意のせいで会ったら邪険にしてしまいそうだ。けれど今は木吉のおかげで幾分か落ち着いているし、会って早々睨みつけることにはならないと思いたい。
次第に近づく音にはやく行こうと駆け足のまま体育館に続く角を曲がろうとして、どん、と衝撃が走った。

「うわっ!?」

瞬間、金の髪が視界に映り、オレは尻餅をついて書類をバラまいた。ぶつかった相手は驚いた顔で立ったままだった。

「すんませんッス!怪我はありませんか!?」
「うん、大丈夫。こっちこそごめんね……君も怪我はない?」
「大丈夫っす!あ、オレも書類拾います!」
「ああっごめんね。ありがとう」

金髪の男に手を取られ引き上げられ、立ち上がって軽く謝罪しあう。オレがしゃがんでぶちまけた書類を集め出すと金髪くんも素早く書類を集めはじめた。
それにしても、180近いオレをはじいてびくともしないのだから体格の差が恨めしい。キセキの世代は赤を覗いてみんなこれより高いのだからやってられない。特に紫はシャレにならない。

「全部あります?」
「……うん、ありがとう。助かったよ」

書類を受け取ってすべてそろっていることを確認する。改めて礼をすると、黄瀬はよかったと言って笑った。

「黄瀬くん、だよね?バスケ部に用事かな」
「やっぱりわかっちゃうッスか?」
「キセキの世代、だからね。オレもバスケ部だし」

流れでそのまま会話を続けるが、黄瀬はオレが出した「キセキの世代」という言葉にそれまで面倒だというだけだった目を冷ややかな眼差しに変えてオレを一瞥した。けれどそれも一瞬で引っ込んでしまった。

「そうだったんすか。失礼ッスけど、名前は……」
「ああ、ごめんね。オレは2年の花宮真。よろしくね」
「はいッス!」

黄瀬は礼儀正しい。おそらくモデルという業界で揉まれているせいだろう。それでなくても運動部は上下関係に厳しいから、当たり前といえば当たり前だ。ただ、表面だけを見ると騙されそうになるが、黄瀬の目は静かに人を見下していた。これでも、他のキセキに比べるとまだマシだというのだからやってられない。視界にすらいれてくれないのだから、キセキの世代ってやつはムカつくんだ。



back
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -