花宮成り代わりin誠凛 | ナノ
2014花宮誕生日


ピンポーン、と少し気の抜ける音が響いた。
オレはこんな日曜日の朝からご苦労なことだと思いながら階段を下りて玄関に向かう。両親は今朝から買い物に出ていて家にはオレしかいないから仕方なく訪問者に応対する。ドアを開けるととても見知った顔が三つ、目についた。

「よう、真!遊びに行こうぜ!」

満面の笑顔を浮かべた木吉が片手を挙げて言う。その声調は断られることなど考えてすらいない風だ。オレがドアの隙間から上半身をひょっこり覗かせたまま止まってしまったのを見て日向が溜息をつき、伊月が肩をすくめ苦笑した。

「あー……急に悪いな。木吉がどうしても花宮のところに行くってきかなくて」
「オレたちも急に呼び出されてさ……」

どうしていきなり……と、ふと今日の日付を思い出して、オレはドアを閉めた。

「え゛っ!おい花宮!?」

外から日向の声が聞こえるが気にせず自分の部屋に行く。オレは今日のことを木吉に話したことがなかったから、きっとオレが特集されていた月バスの記事で知ったのだろう。
クローゼットからコートを取り出し羽織り、いつも使っているショルダーバッグに財布を入れる。赤いマフラーを巻き、母親に「出かける」とメールを入れて家を出た。

「あ、花宮」
「な、言ったろ?すぐに来るって」
「はいはい、オレが悪かったよ」

いち早くオレに気づいた伊月の呟きに木吉が自慢げに答えると日向がまた深く溜息をついた。この様子だとオレが何も言わずに家の中に入っていったから「一緒に遊ぶつもりはない」と日向が解釈して、用意しにいっただけだと木吉が言ったのだろう。想像するのは簡単だった。
鍵を閉めて、マフラーに顔を埋めながら振り返ると日向が噴き出した。

「ブッ、花宮おまえ完全装備じゃねーか!」
「真は寒がりだからな!」
「……悪かったな」

カーディガンの上からピーコートを着込んでみごとに着膨れたオレを見た日向は大げさなくらいに腹を抱えて笑っている。悪かったな寒がりで。これでもこのコーディネイト()に普段使っている手袋はいかなものかと思って装着してこなかったんだぞ。花宮は見た目がいいからオシャレ()にも気を使いたい。おかげで今日はずっとポケットに手を突っ込んでおくことになりそうだ。

「はやく行こう、時間がなくなるぞ」
「つーか、どこ行くんだよ。いきなり押しかけてきやがって」
「ん?映画館だぞ?真、前に見たい映画があるって言ってたからな」
「……まあ、行ってやらないこともない」
「だからはやく行こうって、もうあんま時間ないから」

今日は家でゆっくりしておこうと思っていたけどせっかくだから行こうじゃないか。確かに元々見たいと思っていた映画はある。映画館がある隣街のショッピングモールまで行くのが面倒だったからレンタルでいいかと思っていたが、どうやらこれがプレゼントらしいから誘われてやろう。まずは駅だな、とオレたちはスマホを見ていた伊月の急かす声で歩き出した。





映画は少しだけ王道から外れたアクション物だった。主人公とヒロインの恋愛が切なく甘く、クライマックスのバトルシーンが最高に熱かったということを明記しておこう。実を言うと王道は結構好きだったりする。主人公が挫折と成長を繰り返しながら仲間と共に勝利を掴む展開とか大好きだ。そう、ジャンプとかまさにそれな。この映画に関しては王道過ぎなかったところがまたいい味を占めていた。オレは満足だ。

「今何時だ?」
「えーと、12時くらいだ。ちょうどいいから昼にしよう」
「オレパスタ食べたい」
「パスタがあるレストランにしよう」
「決断が速い」

オレはパスタが食べたいんだ。もっと言えば専門店で食いたいんだが、まあ今日は日向たちもいるからレストランで我慢しよう。オレの言葉に木吉が即断するとぶつくさ言いながらも日向はさっさと先頭を行く。このツンデレめ、伊月が口を押さえて肩を震わせていた。


適当に入ったレストランの味は、まあ良かった。そもそも日本の料理は味の水準が高いから好みの問題はあっても誰もが不味すぎて食えないと言う店は少ないだろう。つまり普通に食える味だった。酷評かもしれないがパスタに関してはオレの舌は例の専門店のせいで肥えてしまったのだ、許せ。ちなみに木吉はハンバーグ定食、日向はカツカレー、伊月はステーキ定食だった。……この中にパスタというのは、まあ、多少浮いている感があったよな。そして伊月はいつぞやの「このステーキ素敵」というダジャレを披露してくれた。うざい。

「で、この後の予定は?」
「……えっと、」
「ねーなら親も帰ってるだろうから帰りたいんだけど、なんかパーティーするから昼過ぎに帰って来いって」
「そっか、それなら仕方ないな」
「あ、いや、でもえっとまだっ……」
「伊月うるさい。花宮、オレちょっと寄りてーとこあるからそこだけ付き合ってくれるか?」
「おお……」

帰りたいと言ったら目に見えて焦り出した伊月に面食らった。そんなにオレといたいのかそうか、ってこれは違うな。対して木吉はいつもどおりのほほんとしてやがる。まったく、食えない奴だぜ……ってこれ何のセリフ。

ツッコミのセルフサービスや、とどこかの妖怪を連想させるイントネーションで呟いてCDショップに入って行った日向を待つ。すぐ終わるから待っててほしいと言っていたから買うものは決まっているのだろう。というかあいつ音楽聴いたりしたんだな、少し意外だ。伊月は待ってろと言われてもついていった。仲良いなあいつら、なんてぼんやりと後ろ姿を眺めていると隣にいた木吉が口を開いた。

「真、誕生日おめでとう」

見上げると、木吉が本当に嬉しそうに微笑んでいた。

「メールできいたけど」
「ちゃんと顔見て、俺が一番に言いたかったんだ」
「……あっそ」

慌てて逸らした視界の端に木吉の笑顔が映って頬に熱が溜まる。面と向かって祝われるのいは、少し恥ずかしい。毎年幼馴染たちが盛大に祝ってくれるが、いつまで経っても慣れないものだ。

「生まれてきてくれてありがとな、真」
「……こっちのセリフだ、バァカ。いつも、隣にいてくれて、ありがとう」
「っ……真っ!!」
「あ、ちょっ、おい木吉!」

照れくささを抑えて呟くと、勢い良く木吉に抱きつかれた。慌てて引き剥がしたけど木吉がおかしな顔であんまり必死にしがみついてくるから、嬉しくて少し視界が滲んだ。





それからしばらくして日向たちが戻ってきたから三人を連れて家に帰る。メールで聞いたところ、母から連れてきていいというお達しが出たからだ。家の前まで来てスマホをいじり始めた伊月に一声かけて鍵を回しドアを引く。するとパンッパンッ!と音がしてカラフルな紙がオレの頭上に降り注いだ。

「は?」
「誕生日おめでとう!花宮!」
「おめでとうございます、花宮先輩」
「おめでとうだ、です、花宮先輩!」
「火神くんは一度敬語の勉強をしましょうか」
「おめでとう真生まれてきてくれてありがとう俺と出会ってくれてありがとう好きだ真愛しておい一哉何をするんだ」
「はーい康次郎は黙ってねー!誕生日おめでと、真!」
「おかえり真、パーティーの準備出来てるぜ。おーい健太郎、真帰ってきたぞ」
「……ふがっ、……ああ、真おかえり」
「えっ、っておいちょっと待ておまえら!」

玄関のぎゅうぎゅう詰めになっているチームメイトと幼馴染に目を瞬かせる。これは予想だにしなかったことだ。弘の言葉からすると朝っぱらから連れ出されたのはパーティーの準備をするためで、木吉たちはサプライズのためにオレを家から引き離す役だったということだ。花宮の回転の速い頭はこういうときにも作動するらしい。嵌められた、と思ってバッと木吉たちを振り返るとまたパンッ!という音が響き、色が舞った。

「誕生日おめでと、花宮」
「おめでとう、花宮!」

咄嗟に瞑った目を開けると日向と伊月がにやにやと口元を歪めながらクラッカーを手にしていた。一度ならず二度までも、このオレを謀るとは許さない!なんて思ったけど、ぎゃーぎゃー騒いで駆け寄ってくるこいつらを見ていると一周回って落ち着いた。近くにあった黒子の頭を撫でながらしっしっ、と手を振る。

「ほらおまえら、近所迷惑だからとりあえず家入れ」
「えー、ちょっと花宮ー」
「真ってば冷たい!」
「うるせえ、いいから入れ」

頬を膨らませる小金井と一哉を水戸部と一緒に家に押し込む。他もそれに続いてぞろぞろと家に入っていった。ドアを閉めて、改めてみんなの顔を見るとみんなそれぞれ笑っている。揃いも揃って顔が緩みきっていて、隣の木吉に目を向けると同じように締まりのない顔を晒していたから、呆れと嬉しさが混ざって結局オレは苦笑を作ることにした。

「誕生日おめでとう、真!」
「ありがとう」

そう言って笑えば、大切な仲間たちがニッと笑ってくれた。


140112 Happy Birthday!
(140112~140213拍手お礼)



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