花宮成り代わりin誠凛 | ナノ


「1-B火神大我!キセキの世代を倒して日本一になる!!」

突然響いた大声に空を見上げる。屋上の柵の上には大声の犯人の火神が何の怖気もなく堂々と立っていた。なんだなんだと騒ぐ周りの声の合間を縫って、溜息が聞こえる。それは後ろからで、日向が呆れながらも笑っていた。
オレはというと太陽は間逆の方向にあるというのに、ひどく眩しく感じて無意識に手で影を作っていた。
羨ましい。あんなにはっきりと言えることが。


天才だと持てはやされたときがあった。羨まれ期待され、こぞって憧れの視線がまとわりつく。強いとか賢いとかは当たり前の評価で、誰も努力を見ようとしない。それで、一度負ければ失望する。期待はずれだとか弱いだとか散々な批評がついて回る。
勝手に期待して勝手に失望しといて、それをオレたちに押し付けるなよ。虫唾が走る。憎くて憎くて仕方ない。不名誉な呼称もうんざりだ。
新しい天才は、下を一瞥することもしない。いないことと同じ。それは、とても癇に障った。憎悪と劣等感と羨望とをない混ぜにして、どれだけ手を伸ばしても届かない遥か高みを仰ぎ見る。そうして必死でもがいて近づいた先で懲りないなと叩き落とされる。
遠すぎる天才が別々の道を歩み始めて、今なら勝てるかもとか、それじゃ意味がないのはわかっているけれど、それでも諦めきれなくてまた手を伸ばす。

「どうした真」
「……今日の朝礼で、相田がまたやらかした」

誠凛では月曜に全校生徒での朝礼がある。そこで、相田はバスケ部に入部するに当たっての目標を叫ばせる。一回戦突破とかがんばるとかは認められない。そういう場合は容赦なく入部を諦めさせられる。同好会もあるからそちらへどうぞ、と。まったく相田は容赦がない。オレもよくあの宣言で許されたものだ。

「リコも相変わらずだな〜」
「なあ、木吉」
「ん?」
「真っ直ぐって、羨ましいな」

何気なく呟いて、視線を膝に落とす。パイプ椅子に座るオレが俯けば、ベッドに座る木吉からは顔が見えない。結局オレは切り替えることもできていない。しばらくはきっと、このままなのだろう。

火神が、羨ましかった。ポテンシャルは天才のそれと変わりなくオンリーワンの才能を秘めている。オレには、どう足掻いても手に入らないものだ。そんな奴が、あのいけ好かない天才どもを倒す。そりゃあ、倒せるんじゃないのか。倒せる可能性があるだろ。可能性すら得られなかったオレと違って。自虐ネタも大概にしろよ、惨めったらありゃしない。
血が滲むくらい唇を噛めば、はは、と笑い声がして大きな手がぐしゃぐしゃとオレの髪をかき混ぜた。

「ばっ、てっめ、何しやがる!」
「真は真でいいんだよ。歪んでても、オレは真がいい」
「きめぇ!何言ってるかわかんねえしもうてめー黙ってろ!」
「ひどいぞ真〜」

ふにゃりと気が抜けるような笑顔で木吉はオレに笑う。逃げ道も残さないほど追い詰めて、そうかと思えば今度は甘ったるいくらいに優しく救い上げて、こいつは結局何がしたいのか。木吉の真意がわからなくて、それでもここしかないと思うくらいにはオレも絆されてしまっていた。

「それで、どんなヤツが入ってきたんだ?」
「……ああ、そういやまだ言ってなかったな」

てっきり相田やら日向からも聞かされてるんじゃないかと思っていたが、そういえばコイツと一番顔を合わせているのはオレだった。まだ新入生が入ってきてから相田たちはここには来ていなかったと思う。

「髪の毛が赤と黒のツートーンカラーで眉毛が喧嘩別れしてる馬鹿とか、ありえないほど影が薄い神出鬼没の水色透明少年とか」
「……随分キャラが濃いな」
「養殖と疑われるような天然が何言ってやがる」

インパクトは目の前の養殖の方が少ないが、一緒にいて疲れるのも間違いなくこいつだろう。思えば木吉はあの妖怪と同じくらいいい性格をしている。オレの方が幾分か可愛いくらいだ、絶対に。
相変わらずにこにこと笑ったままの木吉にイラついたからその程よく出たデコにきついデコピンをお見舞いして盛大に笑ってやろうと思う。



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