花宮成り代わりin誠凛 | ナノ
2014正月


WC後


年末はバスケ部全員で部室の大掃除をし、木吉の家で集まって年越し蕎麦を食べる。これは誠凛バスケ部ではお馴染みのことだ(といっても去年からだからお馴染みもクソもないのだけれど)。WCが終わって優勝を噛み締めつつの年越しだ。去年とは違って全員の顔が緩みきっているのが少々問題だが、そこは年明けに相田からの恐ろしいシゴキがまっているのだろう。オレだけ軽くなったりしないかな。

木吉の家は広くて、純日本家屋というのがピッタリの昔ながらの風体だ。それも木吉の祖父母の家だからと納得してしまう。
十数人は余裕で入れてしまう大広間は畳の上にカーペットが敷いてある。その上で小金井がごろごろしていた。子供か。

「こたつぅ〜」
「諦めろ小金井ッ、オレ達は負けたんだ……っ!」
「ははは、さすがに全員は入れないからなー」

小金井がこたつこたつとうるさく言うのを日向が泣く泣く宥める。木吉は相変わらずのほほんと笑っている。三人家族のこの家のこたつはそれなりだ。ということで、十数人の男子高校生が入れるわけもなく、ジャンケンに勝利した伊月と水戸部、ダークホースの降旗がぬくぬくと温まっている。四人用のこたつの最後の一人は言わずもがな、我らがカントク相田である。河原と福田が恨めしそうに降旗を見て、火神もこたつが珍しいのが視線はずっとこたつだ。それに黒子が「うちに来ればいくらでも入れますよ」と言っていたり。うちの部員は仲がいいな、なんて皆の輪から一歩引いて眺める。花宮はこういうの、嫌いなんだろうな。

大晦日といえば紅白歌合戦だろうと大半の部員の声で大広間で大声で騒ぎながらテレビを見る。ぎゃいぎゃい騒ぐこいつらを見ていると木吉のおじいちゃんとおばあちゃんには悪いことをしたと思う。二人でまったりと年を越したかっただろうに。気にするなというお人よし具合は木吉にも受け継がれているのだろうと思った。
それに加えておばあちゃんは年越しそばまで作ってくれるというのだから頭が上がらない。手伝うと言った相田をこたつに押し込むのに気を取られて手伝いには誰も行っていない。さすがに悪いだろうなあとオレはテレビを見ながらまったりと会話する皆に気づかれないようにそっと席を立った。はずだった。

「いやー、やっぱり真は優しいなあー」
「……何のことだよ。それより何でくんだよテメエは紅白でも見てろ」
「ん?ばあちゃんの手伝いだろ?オレも行こうかなって」

なぜバレた。と思わずにはいられない、どうしてもだ。
台所は廊下を行ってすぐそこだ。加えて木吉の家だから振り切ることもできやしないじゃないか。何の気なしに手を取ってくる木吉の馬鹿でかい手を抓って振り払う。何てことをするんだ気色の悪い。
それでも木吉の顔はにこにこと常に変わらないから性質が悪い。台所近くでイライラが顔に出ないように治めて、見えたおばあちゃんの背中に声をかける。

「手伝います」
「あら、花宮さん。ごめんなさいねえ」
「いえ、お構いなく。大勢でおしかけておいて何もしないわけにはいきませんから」
「気が利くのねえ……花宮さんはいいお嫁さんになるわねえ」
「は?」
「だろ?真はオレのお嫁さんになるんだ!」
「……は?」

おばあちゃんの言葉に思わず笑顔のまま固まった。それから、オレの肩を抱きながら同意する木吉には笑顔のまま肘鉄を食らわせてやった。蹲るまいとふんばる木吉をざまあみろと内心で笑い飛ばした。

「い、痛い……」
「大丈夫?少し向こうで座っていなよ」
「真……」
「ふはっ」

オレがおばあちゃんにバレるようなヘマをやらかすはずもなく、おばあちゃんにも座っていろと台所と繋がる居間に追いやられた木吉はしぶしぶ座布団の上に座った。居間にいたおじいちゃんに笑われている木吉を見て「急にどうしたのかしらねえ」とのほほんとしているおばあちゃんを見て「ああ、木吉だ」と思ってしまったオレは悪くない。
おばあちゃんの話に相槌を打ちながら蕎麦を茹でていると背中に木吉の恨めしそうな視線を感じたから笑ってしまう。そもそもそれなりに広いとはいえ台所に180とそれを越えた男が二人もいれば狭くもなるだろう。その辺、あいつはどう考えているのか。木吉のことだから単純に一緒に料理したいな、とかそんな感じだろうか。

「木吉、蕎麦できたから運んで」
「おお!まかせとけ!」
「危ないから気をつけろよ」
「心配すんなって、こけるときは真も巻き込むから」
「おいバカやめろ」

お盆に数人分の蕎麦を乗せて木吉と並んで大広間に向かう。こいつの冗談は本気かどうかわからないから洒落にならない。ふざけるな、オレを巻き込むなら勝手にこけて火傷しろ。

「あ!花宮、木吉!」
「悪い、手伝うわ」
「おう。じゃあ、あと何人かオレと台所な」
「おまえら一旦そこどけ、机出すぞ」

お盆に乗っけていた布巾でこたつの上を拭いてもらう。そこにお盆を置いて、木吉たちが台所へ戻り、オレも押入れから長机を取り出して広げる。布巾で丁寧に拭いてから蕎麦を並べると黒子が感心したように言った。

「随分なれているんですね、花宮先輩」
「あ?まあ、木吉の家はよく来るしな」
「去年もこんな感じだったわよ。もーおまえら夫婦か!ってくらい」
「茶化すな」
「照れんな照れんな」
「黙れ伊月」

にこにことオレの頬をつつく相田を心底うざいという顔で睨む。伊月も伊月でニヤニヤしながらからかうものだからつい手が出そうになる。が、我慢だ、落ち着け花宮真。こんなことで怒っていたら埒があかないだろうと思うが、こめかみのひくつきは治まりそうにない。そんなこんなしていると蕎麦を持った木吉たちが帰ってきた。

「おまえら席つけよー」
「待ってましたー!早く早く!」
「ちったぁ落ち着けコガ!」
「おいしそうね!」
「……何ソバだっけ」
「年越しそばですよ、火神くん」
「ハッ!敏子が年越しそばを食べる!キタコレ!」
「黙れ伊月!!」
「ほら、座れよ真」
「……ああ」

蕎麦が来た途端ににぎやかになるのだからこいつらもまだまだ子供だな、なんて笑う。木吉に呼ばれて、隣に腰を下ろす。いつの間にか木吉の隣はオレというのが当たり前になっていて、今度は誰も何も言わなかった。少しくすぐったいと思いながらも蕎麦をすすって、テレビには除夜の鐘が映し出されてカウントダウンが始まる。小金井がテレビの声と一緒に読み上げる。いち、とカウントされて、除夜の鐘が鳴り響いた。

「あけましておめでとう!」

図ったように全員が一斉に声を上げるのだから笑ってしまう。少しの間しんとしていた広間に笑い声があふれる。幸せってこういうことなのかと思えば、花宮に自慢してやりたくなった。


「Happy new year.よいお年を……」






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