黒バス短編 | ナノ

ネタのセンチメンタルな高尾♂



春が訪れ暖かくなって来たが、夜はまだ少し肌寒い。本来なら始業式とホームルームの後はすぐに解散するのだが俺たちバスケ部に帰宅という選択肢はなく、今日もいつものように春の空が薄暗くなるまで練習三昧だった。

「はあー、俺らももう2年生かー」

緑間を後ろのリヤカーに乗せて帰路を行く。
俺たちの高校生活も2年目に突入し、今日は推薦で入学した新入部員を交えながらの練習だった。去年と同じように簡単な自己紹介を終えたら新一年は簡単な体力テストと基礎練習、2・3年は各自のメニューをこなすという流れだ。俺と緑間は他のレギュラーメンバーと連携の確認だったのだが、やっぱり、緑間は注目の的だった。
俺が出したパスから、緑間の手から、きらきら輝くような3Pが放たれれば、ボールは虹のような軌道を描いてリングに吸い込まれる。それを驚きや憧憬の目が見つめる。俺はいつだってその瞬間が酷く誇らしく、同時に、酷く苦しくなる。切なくて嬉しくて、眩しくて、苦しい。それは俺が緑間のシュートに紛れもなく憧れているせいだ。

「もう先輩なんだからあんま我が侭いうなよ、真ちゃん」
「……言われずともわかっているのだよ」
「どったの真ちゃん、素直じゃん!明日は雨かなあ……」
「心外なのだよ!」
「申し訳ありませーん!」

ぎゃはは、とあまり品がいいとは言えない声で笑う。前を向いたまま緑間を窺うと険しい顔をしていた。それにまた笑って、緑間の家へ自転車を走らせる。去年の今頃はこの自転車を漕ぐことも大変だったが、今では随分楽に緑間を運べるようになった。それだけの時間を、俺は彼と過ごしているということだ。嬉しくて自然と頬が緩み小さく声がもれると、広い視界の中にいた緑間がまた眉を寄せた。

「何がおかしい」
「いやいや、何もおかしくねーよ」
「じゃあ何だ」
「そんなに気になんの?いつもはうるさい!って言って終わりじゃん」
「……いいから早く言え」
「ちょ、真ちゃん必死すぎっしょ!ほんとどうしたの?」
「それはこっちの台詞なのだよ。いいかげん誤魔化そうとするな」
「は、はは……」

まあ、嬉しい、よな。
緑間が"俺"を必要としてくれること。高尾和成じゃなく、俺を。思わず乾いた笑みがこぼれる。
けれどそれは本来望んではならないものだ。緑間真太郎には"高尾和成"が必要で、俺はそのために生きている。緑間に、パスを出すために。高尾がここにいないから、俺が緑間から、高尾を、奪ってしまったから。

「止まれ」
「え、どうしたの」
「いいから止まれ」
「お、おう」

ブレーキをかけて道の脇にチャリヤカーを寄せる。緑間が荷台から降りたから、俺も降りてその前に立つ。俺より頭ひとつ分高いところにある緑間の顔は、少しだけ泣きそうだった。

「おまえは、すぐに何かを考え込むな」
「真ちゃん……?」
「おまえは、俺の中に無遠慮にずけずけと入り込んでくるが、俺が捕まえようとすればするりと逃げていくのだよ」
「えっと」
「おまえはあまり感情を隠すのが上手くないと、いいかげん自覚するべきだ。でないと待ってやれなくなるのだよ。無理やりにでも、暴いてしまいたくなる」
「……どうした緑間、傷心か?ポエミーなの?」
「…………おまえという奴は……!」

俺の茶化しに緑間が深い溜息を吐いた。せっかく緑間が作り上げた雰囲気が霧散する。
空気を読めていないのは自覚済みだが、まあ、俺も必死ですし?
そう、俺は緑間に悟られないように、いつも必死だ。性格も元が似ているといっても俺と高尾は違うから必死で高尾のように振舞うし、俺の中に微かに存在するこの感情にも、必死で蓋をする。そうしなければ、何かが終わってしまう気がするのだ。
それでも緑間が、俺と高尾の絶対に違うところに気づこうとするのがたまらなく嬉しい。それだけで俺は、彼にとって自分が特別な存在になった気がして、錯覚する。だから、その度にこう唱えるのだ。嬉しさが溢れ出してしまわないように。

「俺じゃ、ないから」
「高尾……おまえは、いったい何を抱えているのだよ」
「ごめん、緑間。まだ言えない」
「…………」
「ごめん……ごめん、緑間」

そう言っておけば、諦めてくれるだろう。言葉がキツくて素直になれない偏屈なエース様の、本当は優しいところを利用する。最低だな、と内心で独りごちた。
すっと息をして、いつものへらへらとした笑みを浮かべた。頼むから、これ以上踏み込まないでくれと。

「さ、帰ろうぜ、真ちゃん!」
「…………」
「こんなとこで止まってたら邪魔だしな。って、人いなくてよかったー……リヤカーの前で佇む男ふたりとかシュールすぎっしょ」
「……はやく、行くのだよ」
「はいよ、エース様の仰せのままに!」

サドルに跨って自転車を発進させる。さっきと同じようにリヤカーに乗り込んだ緑間は、俺の視界の中で泣きそうになっていて、少し鼻の奥がツンとした。
期限はあと2年。俺が秀徳高校を、緑間の相棒を、卒業するまでだ。



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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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