黒バス短編 | ナノ

ヤンデレ要素有
笠松さんがひどく歪んで変態くさい




 夏の蒸し返すような熱気が部室を侵す。森山と笠松が海常高校に入学してから一年が経った。この一年、いろいろなことがあったと思い返しながら森山はスラックスのベルトを締める。日が沈み始め少しは涼しくなったとはいえまだまだ蒸し暑い部室でハードな練習をした後に着替えるのは億劫だった。
 海常高校バスケ部では部活終了後、大抵の部員が下校する中、常に森山と笠松は二人で居残り練習をしていく。それは彼らが部活のツートップを任されたことが大きい。去年のIHでパスミスをした笠松を森山と監督で協力して立ち直らせることに成功した。まだたまに不安になるが、それからというもの、笠松はバスケを続け、練習してもしたりないというほどに練習だけに打ち込むようになった。それに、森山はなるべく付き合うようにしている。
 笠松だけの責任でないはずが当時の三年やOB、後輩や友人からも避難を浴びせかけられた。理不尽なプレッシャーに耐え切れずにやめようと思ったそうだ。それほどひどい罵詈雑言を浴びせられたのだ。笠松の精神は衰弱し、一時は自殺まで考えるほどに歪んでしまった。
森山がそれに気づいたからよかったものの、もしも笠松が本当に自殺してしまったのなら、彼らはそんなになるほどまで一人の人間を追い詰めたことになる。今でも許されることではないが、森山は笠松が死ななくてよかったと思うだけに留める。もしこの気持ちを怒りに変えてしまったのなら、森山は間違いなく刑務所いきだ。それでは、笠松に合わせる顔がなくなる。

「……笠松?」

 不意に、笠松からの視線に気がついた。笠松は着替える手を止めて、感情を感じさせない目で森山を見つめていた。シャツを羽織った森山の腕を笠松が引く。そのまま自身の腕の中におさめて、笠松は愛しい人の名を呼ぶ。

「森山……」

 自らの口からこぼれる音と腕の中の存在を感じて笠松は歓喜に身を震わせる。突然の衝動だったが、今の笠松にはまるで関係がない。
 笠松の中での一番大きな存在は森山だ。森山がいたから今こうして海常高校男子バスケ部の主将として立っていられる。森山がいなかったら、きっと大好きなバスケすら捨てていただろう。一度ドン底に落ち、死のうとすら思った笠松がここまで這い上がれたのも森山のおかげだ。
 そして、笠松はその大きな感謝の気持ちを、恋と名づけた。森山の笑う顔が愛おしい。森山の自分を呼ぶ声が愛おしい。森山の優しい心が、愛おしい。挙げればキリがないほどまで、笠松は森山に陶酔していた。森山の献身的な愛が、笠松にとっては酷く甘い毒に感じられたのだ。

(……うなじにあせ流れてる…えっろ……)

 笠松は森山のうなじに流れる汗を舌で舐めとる。腕の中で森山がびくりと震えたが構わず首筋に顔を埋める。他の人なら身の毛もよだつほど汚いと思う塩辛いだけの水も、森山のものだと思うと途端に堪らなく甘く感じてしまう。森山の匂いを堪能して笠松は森山の背中に回る腕に力を込める。ギリギリと骨を軋ませていく腕に森山が息を詰まらせるのがわかる。苦しそうな森山を見るのは好きじゃない。けれど今腕を緩めて森山に逃げられるのがこわい。

(細い)

 森山は少しやせたように見えた。無理をさせていただろうか。もしかしたら無意識に頼りすぎていたかもしれないし、自分の無茶な練習につき合わせていたことが原因かもしれない。申し訳ないと思う反面、森山に訪れる変化がどのようなものでも自分によるものだとそれだけで笠松は歓喜に酔いしれる。

(細い、このまま力を込めれば折れそうだああいっそ折ってしまうのもいいかもしれない鮮やかな青のユニフォームを着せて百合の花でも敷き詰めたベッドに沈めて青白くなった肌と深い黒緑を飽きるまで眺めて震えることのなくなった長い睫を舐めてやる。そうすればコイツは俺から逃げなくなる)

 本当に折ってしまおうか。自分を止める声がないのをいいことに笠松はそこに辿りつく。腕の力を強めようとして、笠松の耳に愛しい声が届いた。

「どうした。また何か考え込んでいるのか?」

 痛みを押し留めたような森山の声は震えていた。けれど努めて冷静に。笠松は力を強めも緩めもせずに呟いた。返答次第では、猶予をやろうと。

「このまま絞め殺せばおまえは俺から逃げねぇよな」
「……冗談キツイぜ、笠松。オレは、おまえと一緒に生きていたいよ」



献身的な愛と食い違う恋



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テーマ「人外ファンタジー」
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