ネタの岡村に恋する福井♂
岡村は、お人よしだ。
それはもう超がつくくらいのお人よしだ。自分のことを顧みない、というのは少し違うが、自分にできることならやってやりたいという奇特な人間だ。
普段はキモいとか言いながら岡村を避ける女子に、岡村はよく面倒を押し付けられる。例えばゴミ出しとか、教師に言い渡された雑用とか。岡村本人はそれに気づいているのかいないのか、嫌な顔ひとつせず言われたとおりに動くのだ。男子だって例外じゃない。優しい岡村を、体のいい駒のように扱っている。岡村が断らないことを知っているから、オレもたまに手が離せないときには頼んだりするけれど。
これって正直嫌なことだよな、と思う。オレが岡村の立場だったら絶対に即断って男子は少し小突くぐらいのことをしているかもしれない。面倒だから。もちろん自分でさせた方がいいからとも思っているけれど。
気づいたら生まれ変わっていて、前世の記憶を持っているオレでさえこれなのだ。本人の性格が関わってくるのだろうけど、岡村はどう思っているのだろうか。
「嫌だとか思わないわけ」
岡村がゴミ袋を指定の場所に置くのを見ながら声をかける。これが終われば、部活だ。
「そりゃあ面倒だとは思うがのう……たまにな、福井みたいに笑って礼を言ってくれる奴がおるんじゃ」
聞こえた名前がオレのもので、思わず岡村の顔を見上げる。オレよりずっと背の高いそいつに見下ろされることに少しだけイラつきながら、視界を彩る綺麗な笑顔に、心を支配される。
「それだけで、やってよかったと思えるんじゃ」
照れたように笑った岡村が、オレの心にひたすら綺麗に映り込んだ。
「……ばっかじゃねえの」
なんとか必死で視線を外して、下を向く。なんでこんなゴリラが綺麗に見えるんだ。オレの感性よ仕事しろ。顔が熱い。胸が痛い。
生まれ変わって初めて自分の性別を認識して思ったこと、それは恋をしないこと。だって心と身体が伴っていないオレは、あとで絶対につらくなるから。しないと決めた。してはならないと思い込んだ。
けれど、馬鹿みたいに単純な理由で、無意識にオレは絶対にしてはならないことをしでかした。
「ほら!さっさと部活行くぞ!」
「ま、待つんじゃ福井〜!」
岡村の視線から逃れるように背を向ける。
きっと、この先つらいばかりのこの気持ちを、認めたくなかった。
なんで岡村なんか好きになってんだよオレ。
しあわせのふこう
Title:
舌