予兆
初めて見たのは十代と旅をしている途中だった。最初はなんとなく気配がわかっただけだった。少しすると、声が聞こえるようになった。そのあとはぼんやりだった姿が日に日にはっきりと見えるようになった。
"デュエルモンスターズの精霊"
十代のそばにも、それはいた。十代にそのことを言えば、そうかと笑った気がした。今思えば、それは予兆だったのかもしれない。
いつのまにか俺は知らないところにいた。
長い間タッグを組んで、ほぼ無敗という戦跡を持つ相棒の名を呼んでも、それは空しく誰もいない空気に溶け込むだけで。
俺はその街といえるのかも怪しい街を歩いた。行く当ても無く、ただひたすら歩いた。
ふらふらと歩いていくと、道端に落ちたカードが目に入った。
やっぱり、そのカードにも精霊はいた。
自分自身が印刷された厚紙の上でさみしい、とすすり泣く声が聞こえるのだから、つい手にとってしまう。
しかたなく大事にポケットにしまいこむと、ありがとうという言葉があふれた。
そんな俺のポケットには十代以外とタッグを組むことが無くなってから、ほとんど調整を行わなくなった、俺たちのヒーローがたくさん入ったデッキはなかった。
落としたのかもしれないとあたりを探したりもしたが、DAに編入したときよりはるかに良いカードが入ってしまった俺のデッキを拾ったなら、使わなくとも持ち帰ったりはするだろう。少し、悲しくなった。
なんとか衣食住を確保して、朝起きると街に出て、夜になると家に帰って寝る。これがもうかれこれ一週間ほど続いた。今日もきっと特に変わったこともなく過ぎていくのだろうと思った。だが、違った。
「酷いことをするヤツがいるもんだな。」
俺が拾ったカードを見て、不動遊星という彼は寂しそうに言った。この世界に不要なカードなど存在しないと呟いて、俺を見た。名前を聞かれ、名前を聞き、カードを拾ってくれてありがとうとも言われた。不思議なヤツだと思った。
その日のそのあともいつもと大きく違った。いろんな人に出会って、いろんな話しをしたこと、それもきっと何かが始まる予兆だったのかもしれない。
(2010年の文章を発掘)