先頭をジュードたちに任せ、フェルマーは高低差の激しい峡谷をエリーゼに手を貸しながら進む。ジュードやミラたちが魔物を倒し、彼らが取りこぼした魔物をフェルマーが一太刀で切り伏せていく。そうやってしばらく進むと、辿り着いた広場の真上に開いた大きな穴から紫の粒子が噴き出ていた。 「コアが作動してる!けど、この高さ……」 下を覗き込んだジュードが険しい表情で言う。ここから下の地面まで、飛び降りれば怪我ではすまない高さだ。 「どうするよ?」 「時間がありません。噴き上がる精霊力に対して魔法陣を展開します。それに乗ってバランスをとれば、無事に降下できるかもしれません」 「つまり、飛び降りると?」 「ってことは、コアを狙うチャンスは一度か」 ローエンの案にミラとアルヴィンが思案する。その様子を不安そうに見ていたエリーゼの頭を優しく撫でて、フェルマーは悪戯っぽく笑う。 「怖いなら待ってるか?俺は一人でも行くけど」 「……ううん、行くよ。みんなを助けなきゃ」 フェルマーの言葉にジュードも少し笑い、強く頷いた。覚悟を決めたジュードを横目で認め、ミラも同じように頷く。 「ふふふ、なかなか度胸がおありだ」 「見かけによらずな」 ローエンが感心し、アルヴィンが肩を竦める。ふたりの目にはジュードたちが頼もしく映っていた。フェルマーも「いい顔になった」と口元を緩め、ティポを抱いたまま置いてけぼりになっていたエリーゼに手を差し出す。 「お手をどうぞ、エリーゼ嬢」 「!……はい!」 「フェルマーくん、ちょーしんしー!」 「ふふ、ずいぶん仲良くなりましたね。……では、行きますよ!」 差し出されたフェルマーの手をエリーゼが握ると、ローエンが穴の上空にナイフを三つ投げる。それぞれのナイフが正三角形の頂点に位置し、それを基点に紙飛行機の形を模した魔法陣が展開した。 魔法陣に乗り込み、揺れる不安定な状態の中ジュードとアルヴィンが協力して核を打ち抜くと、装置の下部が小さく爆発する。それに伴い、装置も停止した。 地面に降り立って、装置から飛び出してくる街の人たちを見渡し、目当ての人物を探す。 「っ、クレイン!」 「旦那様!」 よろよろと壁に手を着き出てくるクレインに、いち早くフェルマーとローエンが気づいて駆けだした。くずおれるクレインをフェルマーが抱きとめ、一緒に座りこんだ。 「クレイン」 「……フェルマー、戻っていたのか」 「大変な時に屋敷を空けて悪かった」 「いや、構わない……非があるのは僕だ」 自分を認識したクレインにフェルマーは一先ず安心する。それと同時に、改めて傍を離れるべきではなかったと感じていると、クレインは傍らに膝を着いたローエンに顔を向けた。 「すまないローエン。忠告を聞かず突っ走った結果が、これだ……」 「ご無事でなによりです」 感極まったようなローエンの後ろから、ミラがラ・シュガル王ナハティガルの行方を尋ねる。詳細な事情を知らないフェルマーは、そんな人がいたのかと驚く。クレインもナハティガルを問い詰めようとしだが逆に親衛隊に捕らえられてしまい、この有様だと言う。 「そうか……」 「もー!こんなとこ、早く外にでよーよー!」 「だな、長居は無用だ」 「っ!危ない、下がれ!」 エリーゼに抱かれた涙目のティポが首を振りながら泣き立てる。アルヴィンがそれに同意して出口に向かおうとしたとき、核のついていた装置の下部から光があふれた。 ← |