ジョジョ成り代わり | ナノ
▼ ディエゴ♂

指先から放たれた爪弾が頬を掠める。最小限の動きで直撃を避けたが、頬からは血がたらりとこぼれた。
「チ。外したか」忌々しそうに名前を睨みつける目がふたつ。ジャイロは傍には居ないようだ。「やあ、ジョースター君」「消えろ。それ以上近づくなよ」「随分なご挨拶じゃないか」攻撃され、少しとはいえ傷までつけられたというのに名前の表情は愉しそうな笑みで彩られていた。いつだって、ジョニィの鋭い眼光が名前の気分を浮上させる。
険しい道を歩いてきた為に、例外なく名前の愛馬であるシルバー・バレットも疲弊していた。無理をさせるわけにはいかないからと、数分前、レースの途中にある村に休憩として立ち寄れば、そこに偶然、ジョニィが居合わせた。小さな村だからか、他に人は見当たらない。「どうしておまえがここにいる」「別にいいじゃあないか。あの道のりだったんだ。ここで休憩するヤツは少なくないだろう」名前は近くの木にシルバー・バレットの手綱をくくりつける。少し離れた、ジョニィがいるところには彼らの馬が繋いであった。「ジャイロ・ツェペリはどうした」いつもはピタリとくっついているのに珍しいな、と名前はぐるりと周囲を見渡した。「……買い出しだよ」「そんなに身構えるなよ。だいたい俺は君たちに何もするつもりはないんだ」名前が大仰に肩をすくめてみせると、ジョニィは「どうだか」と名前を睨みつけた。

いつだったか、ジョニィの足が動かなくなって馬と距離を置いていた頃に、名前とジョニィが街でばったり出会ったことがあった。
「やあ、久しぶりだな。心配していたよ」名前が車椅子に乗ったジョニィに近づけば、ジョニィは苦虫を噛み潰したような、罰が悪いようなそんな顔をした。
「いきなり消えてしまったから本当に心配していたんだ」「白々しいな」「酷いな。俺はただ純粋に君を心配しているんだぜ」心にもない言葉が次々と口から出て行く。まるで意思を持っているかのように。名前が言葉を並べれば並べる程、ジョニィは自分が惨めに思えた。「僕のことはもう放っておいてくれないか!」と声を荒げたジョニィの、いっそ憎しみすらこもった視線が、名前にはひどく心地よく感じた。
小さい頃から好きなように生きてきたジョニィが、躓いた。それだけで「ようやくか」と名前は以前の、前世の自分では考えすらしないような恐ろしい感情に出会った。もっと恐ろしいことに、それを抱いて、名前は恐ろしいと感じなかったのだ。

「俺と君はよく似ている。正反対だけどね」名前がジョニィに視線を預けながら言えば、ジョニィは「何が言いたい」と眉を寄せる。「いや?ただ似ているってだけさ。栄光と挫折、っていうの?」挫折は少し違うかなあ。なんて名前がおかしそうに笑う。「だから、何が言いたいんだ。はっきりしろよ」ジョニィが痺れを切らして爪弾を放てば「おっと」と名前は危なげなく避ける。「お前と同じだなんて吐き気がする」「君は酷い奴だ、同じだとは言ってないだろう」
毎日を生きることが酷く難しかった名前と、裕福なことを自覚していなかったジョニィ。今では華々しい英国の有名ジョッキーと翼をもがれた哀れな青い鳥だ。
「似てるんだよ。ただ、キレーに反対なだけで」心底愉しそうに笑う名前が、ジョニィには到底理解できなかった。わからない、という表情のジョニィを今度は名前が理解できなかった。「難しかったかい?……じゃあ、ヒントだ」名前は右手を動かして上下する波を作る。「山と谷だよ、山と谷」そう言ってジェスチャーをやめない名前の言うことがまだ理解できない。「意味がわからない」ジョニィは言って、さらに爪弾を放つ。「回りくどいこと言ってないで、言いたいことははっきり言えよ」唸るように搾り出した声には静かな怒りが滲んでいた。けれど名前は持ち前の動体視力で爪弾をかわす。そうして名前はまた心底おかしそうに笑った。
「君は自分が一番不幸だとか思っている節があるだろう」名前はジョニィに向かって歩き出す。あと数歩進めばジョニィとぶつかるところまで来て、名前はようやく足を止めた。名前が地面に座り込むジョニィを見下ろして、「そうじゃあないだろう?なあ、ジョナサン・ジョースター」と、また笑えば明らかにジョニィの殺気が強まった。
「反対なだけで、歩んできた道は同じさ」
言葉が耳に届くと、ジョニィは完全に言葉を失くしてしまった。一歩、名前が進めばジョニィが息を詰める。「自分だけが不幸だなんて思わないことだな、悲劇のヒーローさん」「っ黙れッ!!」ジョニィはほとんど衝動で爪弾を撃った。当然、当たらない。
名前はまたクスクス笑って「そんなにいきり立つなよ」とジョニィを宥める。それが全く効果がないことすらも楽しくて仕方がないようだ。「だから言ってるだろ?何もしないってね」
ジョニィに背を向けて村の奥に消えていく名前の姿が歪む。当たらない、赤が見えない。
僕らは進化をやめたのか、
ジャイロが大きな紙袋を持って帰ってきたときには、ジョニィは残りの爪弾を全て放ってうずくまっていた。


Title:Fortune Fate
131105

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