ジョジョ成り代わり | ナノ
▼ 仗助♀2

「名前さんって好きな人はいるの?」

放課後、カフェ・ドゥ・マゴに名前を呼び出した康一は、頼んだ飲み物が運ばれてくると早々に本題を切り出した。
康一の唐突としか言いようのない質問に、名前は目を丸くする。

「いきなりっすね」
「あはは……えっと、名前さんには由花子さんのことでお世話になったし、ぼくも何か手伝えたらなって……」

というのは建前で、実際のところは墳上に「名前は好きな人がいるのか」を聞き出してほしいと頼まれたのだった。もっとも、全くの嘘かと言われればそうではなく手伝えるのならそうしたいと思ったため、康一も構わないかとこうして行動に移したわけだ。
けれど、こうして親友の恋愛事情に探りをいれていると、康一は探偵のような気分になる。苦笑いが抑えられなかった。

依頼人、墳上裕也は名前に想いを寄せている人物の一人である。
入院していた彼はスタンド能力で名前と康一の友人に危害を加え、その報いとして彼女にそれはもう思いきりボコボコにされた。それでも彼女が好きなのだという。彼の取り巻き3人娘に対する感情とはまた違うものなのだと熱弁されたが、康一には最早どうでもいいことだった。
もしかしたら彼はマゾヒストの気があるのかもしれない。気の強いところもいいと言っていた。けれど殴られたあと目が覚めると綺麗さっぱり怪我が治っていたという彼女の優しさも、墳上が名前に惹かれた理由の一つなのだろう。

もう一人は無自覚の上、過去すでに名前を盛大に怒らせてしまっていた。今では犬猿の仲にまで上り詰めているのだから、康一には手の出しようがなかった。
周りから見てもわかりやすい名前への想いを本人が自覚していたとしても、この先二人がくっつくことになるには随分長い時間を必要とするだろう。
以前と同じとまではいかないが、それでもしっかりと尊敬している漫画家の友人、岸辺露伴を思い浮かべながら康一はやっぱり苦笑した。

「そっか。わざわざありがとよ」
「ぼくがしたくてしてるんだ。それで、好きな人はいるの?」
「直球っすね……まあいいか」

名前は少し目を伏せて康一の頭上、雲ひとつない晴天を仰いだ。

「素敵な人っすよ」

自分がした質問の答えに暗に"いる"と言った名前に、今度は康一が目を丸くする番だった。名前に好きな人がいるとは思っていなかったのだ。
普通、好きな人がいたらその人のことを無意識のうちに思い浮かべてしまうのではないかと康一は疑問を持つ。もちろん、個人の違いはあるだろうし、ただ自分がそれだからそう思ってしまうだけなのかもしれないということは理解している。
それでもやっぱり、好きな人のことを考えると表情に出てしまったり、するのではないだろうか。
由花子の場合、少々特殊ではあるが、それでも自分を好きだとそれこそ全身からオーラが滲み出ているのだ。康一は嬉し恥ずかし、けれど恋をする女の子は微笑ましいと思った。
しかし、名前はそういった雰囲気を微塵も感じさせないのだ。
想い人を簡潔な一言で表現した彼女の表情がよく見えない。康一は名前よりも背が低い。だから上を向いている彼女の顔をうまく見ることができなかった。

「カッコよくて強くて、ちょっと早とちりしがちなのが玉に瑕だけど……世界一、優しいスタンドを使う人だよ」
「……でも、優しいスタンドっていうなら、名前さんのクレイジー・ダイヤモンドもそうだね」
「、はは、康一、やっぱあんたには敵わないっすね」

一瞬黙って続けた名前に、核心を突いてしまったような気がした。
名前のクレイジー・ダイヤモンドは"なおす"能力だ。壊れた物は破片がある限り再生できるし、怪我をした生き物でも、生きているうちならどんなに酷い怪我でさえ一瞬で治してしまえる。
クレイジー・ダイヤモンドこそ、世界一優しいスタンドなのではないかと、言ってしまいたかった。

「何をしているの」
「ゆ、由花子さん……!」

突然自分に影がかかって、康一は背後を振り返ると、自分の恋人である由花子が立っていた。まずい。反射的にそう思って、けれど弁解の言葉は何も浮かばなくて。
そもそも浮気していたわけではないのだから堂々としていればいいのだが、以前のこともあってどうしても嫉妬させることになると思ってしまう。
これでも大分マシになったとは言え、その点に関しては康一はまだまだ由花子を把握しきれていなかった。

「そんなに目くじら立てなくでも大丈夫っすよ。実は康一に恋愛相談にのってもらってたんス。由花子もよかったら付き合ってくれないっすか?」

名前の咄嗟の機転に康一は安堵の息を漏らしそうになった。必死に耐えて、近くの開いている席から椅子を持ってきて由花子を座らせる。
ありがとう、と笑った由花子はすでにいつも通りだったが、どこか不思議そうに名前を見つめた。

「でもあなた、そんなに相談が必要そうには見えないわ」
「あれ、バレたっすか」
「ええ。必要そうには見えないけど、それは諦めているからかしら」
「…………全く、鋭いっすね、このカップルは」

茶化さないでと珍しく心配したように由花子が眉を寄せる。
諦めているとはどういうことなのか。康一はお世辞にも恋愛方面にはあまり明るいとはいえない。何といっても由花子が始めての彼女なのだからそれも当然だろう。
康一はどうにも難しい由花子の発言の意味を真剣に考える。後に由花子に聞いてみると「女のカンよ」と言われてしまってどうしようもなくなるのだが、それはまた別の話だ。
懐から財布を出しながら、名前は席から立ち上がった。

「ここの勘定、私が払っとくんで、後は二人でゆっくりどうぞ」
「……ありがとう。会えるといいわね」
「そっすね。会えると、いいなあ」

まるでそこに居るのに会えないような、そんな寂しさを潜めて。
眩しいほどの笑顔を浮かべた彼女が、本当に心の底から笑うことができる日がくるのだろうか。
任務は成功したと言えるのだろうが、依頼人にはあまり嬉しくない結果だろう。名前にあんなに嬉しそうな、寂しそうな顔をさせる人物には墳上も露伴も敵わないかもしれない。
去っていった名前を眺めてから、康一は由花子と二人でお茶を楽しんだ。
手伝うことは、できそうにない。


見ないふりをした幸せな笑顔


130713
Title1:
Title2:Fortune Fate

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テーマ「人外ファンタジー」
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