ジョジョ成り代わり | ナノ
▼ メローネ♀→♂2

ベイビィ・フェイスがターゲットを分解して任務は終了した。
終局より少しばかり遅れて到着した車の助手席からメローネが降りる。
ギアッチョは愛用のオープンカーに残ったまま少し離れたところにしゃがんだメローネを眺めた。天井も窓もないため、メローネと異形のやり取りも良く見えるし、良く聞こえる。

「Grazie、ロニー」

瞬間、跡形もなく消え去った異形のものは生まれてまだ間もない子供だった。
愛してるよ。
そう言って自身のスタンドを殺した男はいつもと変わらない笑顔を浮かべている。

「……ホンットよォ、胸糞悪ィ能力だな」
「ひどいなあ。まあ自分でもそう思うぜ」

メローネはギアッチョの悪態にからからと笑ってみせる。まるでギアッチョの言葉なんて気にも留めていない。
メローネの母親嫌いは相当なものだが、メローネの能力は母親でもなんでもない女すら母親に仕立て上げて殺してしまう。これではいっそ女という生き物が嫌いなのではと言われたほうがまだ納得できた。それとも、作ってまで殺したいということなのか。
対象の血と女一人を使って生まれるメローネのスタンドは、はっきり言って酷いものだ。
ギアッチョは幼い頃からメローネと共に孤児院で暮らしていたが、メローネの思考にはついていけないところがある。彼は昔から決して良くない方に頭がブッ飛んでいるのだ。

(変わらねー、昔から。でも、何て顔してやがるんだ)

ギアッチョはメローネの笑顔が嫌いだった。
いつも優しげな微笑を携えたメローネが大嫌いだった。
自分のスタンドから生まれた"こども"の名前を愛しげに呼ぶメローネを見ているのがどうしようもなく嫌だった。
どうしてそんなに嫌なのかは大方検討がついている。けれどそれがわかったところでメローネが変わることはないだろう。だからギアッチョも胸に酷いしこりを残したまま何も言わないでいる。

今もギアッチョの視界を占めていたそれは、メローネがオープンカーのドアに背を預けたことで隠れてしまった。
隠れてしまったから、どんな表情をしているのかがわからない。
ギアッチョが眉間に皺を刻んでいると、メローネは徐に右手のグローブを外し、うんと腕を伸ばした。
視線は人差し指の付け根に固定されているのだろう。そこには彼が孤児院に来て数日がたった頃、自ら深く付けた傷跡があった。
メローネはぽつんと浮かんだ月に腕をかざして仰ぎ見るようにして言う。

「ときどきね。マリアに会いたくなるんだ」
「マリア?」
「おれの初めてのこども」

メローネは自身の能力で生まれたスタンドを、しばしばこどもと呼ぶことがある。
もともとスタンドは血の通った生物ではない。ベイビィ・フェイスによって生み出される、彼がこどもと呼ぶ存在も交配で生まれるわけでもなければ分裂して増えるわけでもない。無理矢理"こども"の両親を定めるとしても、それは自然と母体である女と使われた血液の持ち主となるだろう。血液の持ち主の性別はこの際置いておく。
能力の本体という意味での親なのかもしれないが、普通に考えて彼が"こども"の親になることはないのだ。
それでもメローネが自分のこどもだと宣言するのは、すぐに死んでしまう母体の代わりに自分が愛さなければならないと感じているからか。
あるいは、母親という存在を認めていないというだけかもしれない。彼が母親を母体と呼ぶことはあっても母親と呼んでいるところは見たことがない。

「母親殺して生まれた子供に聖母の名前付けるか、フツー。マジで趣味悪ィなてめーはよォ」

子供は愛されなければならない。メローネが常日頃から口にする言葉だ。
つまり、子を愛するための親がいないから自分が親になるのでは。
ギアッチョは柄にもないことを考えてしまったと湧き上がるイライラに任せて周囲のものを殴り飛ばしたくなった。
メローネはこちらを見て微笑む。

「きっと聖母様に許してほしかったのかな」
「白々しい、っつか。ンなこと全然、これっぽっちも考えてねーだろ」
「ははっ。うん。まあね」

一頻り笑って、メローネは助手席に乗り込んだ。いつの間にかはめられていたグローブが携帯電話を掴んでどこかへと電波を飛ばす。

「あ、もしもしリーダー。うん。終わったよ」

うん。そう。ああ。それじゃあ。
返事だけを繰り返して、ブツリと音がする。ちゃんとした任務の報告はアジトに帰ってからだ。ギアッチョは車のエンジンを掛けながら言う。

「……帰り、どっか寄ってくか」
「え?珍しいね、ギアッチョ。どうかした?」
「うっせェな!そんな気分なんだよッ!」
「わかったって!そんなに怒るなよ」

またからから笑うメローネが憎らしい。ばつの悪い顔をしてギアッチョは夜の街に車を走らせる。
どこが良いだろうか。メローネは何が好きだったか。そもそも店は開いているだろうか。
どこも開いてなかったら、そこらの公園でもいいかもしれない。いい歳した男が二人で並んでベンチに座るなんて、さぞや最悪な気分だろう。それも、悪くはない。
隣に座るその憎らしい表情を崩すために、ギアッチョは少しだけ乱暴に運転することにした。


130627
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