ジョジョ成り代わり | ナノ
▼ 吉良♀

「クソ!どうする、この状況をッ!」

数十分前から仗助は見知らぬスタンド使いと戦闘していた。相手のスタンドはスライムのようにぐにゃりと姿を変える。その性質のせいでいくら殴ってもダメージはなく、逆に仗助自身がスライムに纏わりつかれ身動きが取れなくなり相手のナイフなどで少しずつ傷を負わされてしまう。なんとか身体にへばりつくスライムを取り払った仗助は思考する。額に汗を浮かばせながらこの状況を脱する策を探っていく。
周りを巻き込まないようにと大急ぎで人通りの少ない廃墟に移動したのは間違いだったようだ。幸いというか、相手のスタンド事態に驚異的な力はないため戻って康一や億泰に応援を頼むか、何か役に立つ道具を見繕うのもいいだろう。
そう思い至って仗助が踵を返そうとした時、背後の扉からもう一人が現れた。

「なッ!?」

背後への警戒を完全に失念していた仗助は咄嗟に横へ転がり、もう一人のスタンド攻撃を避ける。一度目はその反射神経と身のこなしの良さで事なきを得るが、次はそうもいかない。スライムのスタンドがまたクレイジー・ダイヤモンドと仗助の動きを封じる。そして、近接パワー型と見られるもう一人のスタンドの拳が仗助に襲いかかった。
まずい、と歯を食いしばり襲い来る痛みを覚悟した瞬間、仗助の目の前で小さな爆発が起きた。

「な、なんだァ!?」

爆風が捲き起こり、仗助の視界を奪い取る。叫んだ拍子に煙を吸い込んでしまい仗助は勢い良く噎せる。

「そこまでにしてもらおうかしら」

煙が晴れると仗助とスタンド使いの間に女性が立っていた。艶のあるハスキーボイスと落ち着いた口調は仗助がよく耳にするものであり、自分に向けられた背中は毎日教卓越しに眺めているものと寸分の違いもない。仗助は自分の目が見開かれていくのがわかった。

「あ……あんたはッ……吉良名前ッ!」
「……先生、よ。東方くん」

名前が振り返り呆れたような視線を投げかける。それに苦笑で返す仗助は口を開こうとしたところで襟首を掴まれ強制的に屋外に引きずり出された。何をするんだと再び開口した瞬間、先ほどとは比べ物にならないくらいの爆音が廃墟を崩壊させた。ぱくぱくと酸欠の金魚のように口を開閉させる仗助は尻持ちをついていた。

「さすがに、あの程度では駄目だったようね」
「先生……あんたは……」
「東方くん、下がっていなさい」

動き難そうな薄桃色のマーメイドスカートの汚れを払って名前は立ち上がる。視線の先には瓦礫を押しのけて外へと這い出てくるスタンド使いたち。おそらく建物が崩壊する前にスライムが二人を包んで瓦礫から身を守ったのだろう。混乱した様子の仗助を置いて、名前は自身のスタンドを発現する。

「キラー・クイーン」

名前が名前を呼ぶと同時にネコ科の動物のような顔をしたピンク色の人型のスタンドが現れた。それを従えて高級そうな白のコートのポケットに両手を突っ込んだまま余裕たっぷりな名前の立ち姿は到底今から命のやり取りを始めるようには見えない。
態勢を整えようとしていた相手へとキラー・クイーンがラッシュを仕掛け、スライム型のスタンドがそれをモロに食らった。けれど負けじとその身でキラー・クイーンを拘束した。その隙に、もう一方のスタンドが本体である名前に肉迫する。

「先生ッ!あぶねぇ!!」

仗助は咄嗟に飛び出そうとして、後ろから微かに窺える名前の顔が少しも焦っていないことを認める。少し遠くの方で爆発音が聞こえた。

「第一の爆弾」

自由になったキラー・クイーンが名前に到達する前にスタンドの拳を握りつぶした瞬間、また爆発音がした。

「さて、東方くん。この後は寄り道せずに家に帰るのよ」

しんと爆風の晴れた道路に悠然と佇んだまま名前は言う。教え子に大きな怪我がないことを確認して背を向けて立ち去る名前を仗助は呆然と見送るしかない。名前の立ち去った後にスタンドや本体の姿はなく、辺りには焦げ臭いにおいが漂っていた。


140524
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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