DIOによって花京院が給水塔に叩きこまれる。全身血だらけでぐったりしている花京院を見て血の気が引いた。壊れた給水塔から溢れた水が花京院を冷たくしていく。
(はやく、はやく走れ。もっともっとはやく走るんだ。時間をかけるな。ぼくは今何秒かけた?何分かけた?はやく、はやく。)
スタンドの力で給水塔に飛び移る。時計塔にエメラルド・スプラッシュを放って、花京院がぼくを見上げる。

「これが、最後の……エメラルド・スプラッシュだ……」
「最後じゃない!」

必死に花京院の頬に手を伸ばす。失えない。
仲間思いで頼りになって、案外いろんなことを知っている花京院は、承太郎にとってもぼくにとっても大切な仲間だから。絶対に死なせない、ぼくが助ける。

「ぼくはずっと、自分のこの能力は怪我を治す能力だと思っていた。でも違う。どんなに小さな怪我でも一週間前のは治せなかったし、どんなに酷い怪我でも少し前に負ったものなら綺麗サッパリなくなった。だからこれは……きっと、時に干渉する力!」

花京院の腹部に開いた穴が再生する。時が巻き戻る。身体中にある傷も瞬く間に姿を消して行く。全ての傷が消えて花京院は安心したように微笑んで意識を失った。
(よかった……とりあえずは、一安心)
彼を瓦礫のない場所に横たえて、ぼくはDIOの方を向く。
花京院のおかげでDIOの能力はわかった。でもぼくの能力じゃあきっとDIOは倒せない。だから承太郎が来るまで、ぼくがDIOを引きつける。

「DIOッ!」

DIOとジョセフの間に割って入る。後ろからぼくを呼ぶ声が聞こえたけど、無視する。ジョセフはDIOと十分に距離をとっていたからきっとぼくたちの会話は聞こえないだろう。

「ほう……貴様が相手をしてくれるのか、空条名前」
「……久しぶりだね、ディオ」
「…………なに?」

DIOが怪訝そうに眉を潜める。わからないのか、ぼくが。よりにもよって、君がぼくを。
これでもかというほどの嫌悪をこめてDIOを睨みつける。君はいつだってジョナサンを苦しめていた。父さんだって。今の母さんのことを抜きにしたって、もう許す許さないの次元をとっくに超えている。

「ジョナサンの身体は快適?ぼくの身体は今どうしてる?」
「貴様、まさか……ッ!!nameかッ、nameだと言うのか!?」
「思い出してくれたようで何よりだよ」
「……フ、フフフ、フハハッ!!!……思い出しただと?いいや、思い出してなどいないッ!!なぜなら、おまえのことを忘れたことなど一秒たりともないからだッ!!!」

狂ったように笑うDIOに一瞬にして距離を詰められた。恐らく時を止めたのだろう、もう目と鼻の先まで来ていた。

「ようやく、ようやくだッ!当初の予定とは随分違っていたが、ようやくおまえはこのDIOの元に戻ってきたのだァ!!」
「ッ……!」

DIOの指先が触れた瞬間、ぼくはスタンド能力を発動させる。DIOはついさっきまでいた場所に戻っていた。そして、ぼくの身体を誰かがさらう。

「無事か、名前!」
「……大丈夫だよ、承太郎」

承太郎に抱えられて立ち並ぶ建物の上から地上に降りる。強い力で抱きしめられて、いつでも大胆で恐いもの知らずな承太郎にも恐いものがあったのだと知る。
ゆるりと背中に腕をまわせば一層強くぼくを抱きしめて、承太郎は上を睨みつけた。

「その手を離せ、承太郎……nameは私のものだ」
「いったい誰のことを言ってやがる。こいつは、名前だ」

どちらも正しい。ぼくは確かに名前でありnameだ。なんだか承太郎をだましている気分になってきた。実際は黙っているだけだが、それでもきっとだましていることになるのだろう。それはジョセフに対しても同じだ。
この戦いが終わったら、二人に……いや、みんなに打ち明けるのもいいかもしれない。

「フフフ……待っていろname、今すぐ承太郎を殺してやる」
「殺されるのは君だよ、DIO」
「言うようになったじゃあないかァname」

DIOが唇を歪めると承太郎がぼくを背中に追いやった。ぼくは承太郎のサポートに努めるべきだ。巻き戻すだけの能力じゃあDIOに致命傷を与えることなんてできない。
承太郎とDIOが同時に飛び出してスタンドをぶつけ合う。

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」

互いに拮抗しているように見えてパワーもスピードも少しばかりDIOが上だ。スター・プラチナを殴られて承太郎の右顔面から血が吹き出す。ぼくはほとんど無意識に承太郎の頬に手を伸ばした。それなりの怪我だったとはいえ、ぼくも少し落ち着かなくちゃあならない。この能力はあまり連続して使えないのだから使うタイミングを計らないと。

「ッ悪い、名前」
「気にしないで」
「……何か時に干渉する能力か。厄介だなァname、ならばッ」
「!何をするつもりだ!」
「私とnameが共にいるために必要なことだ!ザ・ワールドッ!!」

急展開。咄嗟に承太郎がスター・プラチナでぼくをかばう。

「無駄無駄ァ……少し利用させてもらうぞ、承太郎ッ!」

DIOの腕が、無防備な承太郎の胸を貫通する。DIOが腕を抜くと赤い血が飛び散って、宙に漂ったまま静止した。
ぼくは目を瞠る。鮮やかな赤が踊る。

「ほう……やはり見えるか、この時が止まった世界を認識できるか」

DIOが承太郎の血で光る手でぼくの頬を優しく撫でる。身体はおろか、指先一本も動かせず声も出ない。ただただ目を瞠るぼくを愛おしそうに見つめて、DIOは宣告する。

「ひとつチャンスをやろう……時は動き出す」
「ぐっ……がはっ」
「ッ!承太郎ッ!!!」

いつの間にか身体が動かせるようになっていて、ぼくは隣の承太郎にすがりついた。承太郎は目を見開いて、何が起こったかを直感的に理解したようだった。承太郎の胸に開いた穴に手をかざす。どうにか穴は完全に"元に戻った"。
つくづく便利な能力だ。でも、ぼくは完全に後手に回るしかない。そして、これで恐らく最後だ。

「名前ッ」
「フハハハハッ!!!これでnameはこのDIOのものだッ!永遠にッ!!」

承太郎の悲痛そうな顔が視界を埋め尽くす。じんわりと胸の辺りが暖かい。ああ、承太郎。きみもこんな感覚だったのかな。
(わらって、わらって。きみにそんなかおはにあわないよ)
何かが抜き取られるような衝撃、ふわりと包まれた身体。さむくてつめたくて、いっそこのまま息をするのもやめてしまおうか。






ふわふわ、海を漂う。星を見つけて、とても安心した。近くにきみがいるのは、とても素敵なことだ。









勢いで書いたら承りさんのセリフがほぼ名前だけ
130901


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