JOJO成り代わり | ナノ

露伴は康一を家に招き入れた途端に口を開いた。

「康一くん、何か変わったことはあったか?」

週に一度の報告会は必ず露半のこの言葉から始まる。
この報告会の趣旨は露伴が大嫌いな名前を笑うために、名前の弱点を康一から聞き出すというものだ。名前の親友である康一からであればきっと有力な情報を得られるだろうと露伴は踏んでいる。しかしもう一ヶ月になるというのに、未だにそれらしい話は出ていなかった。
それでも報告会をやめていないのは、いつかきっとこれでもかというくらいの名前の弱点が顔を見せるだろうと思ったからだ。露伴は自身に実益が生じないことでも、心から決めたことには全力を尽くすタイプである。
露伴は今日こそは「特にありませんでした」という答えでないことを期待すれば、図ったように康一の口からはそれと違う言葉が飛び出した。

「弱点というか、驚いたことなんですけど……」
「ほう?どんなことだ」
「名前さんって、面と向かって褒められるのは慣れてないみたいなんです」

露伴は思わず「それがどうした!」と叫びそうになった。けれど、せっかく康一が持ってきた情報をみすみす逃す必要もないと思い口を閉ざす。

「少し前に不良に絡まれたところを名前さんに助けてもらって」

一般人相手にスタンドを使うわけにもいかないからと頭を捻らせていたときに、偶然通りかかった名前が康一を助けた。喧嘩もせずに場を治めてしまった名前をすごいと思った。それを伝えると、名前が頬を染めて照れるから、康一は「これだ……!」と胸中で叫ばざるを得なかった。

「それですごく珍しかったから、一応言っておこうかなって」
「…………」

名前が照れた。自分と会えばすぐに喧嘩になるために、露伴が名前の照れたところを見る可能性なんて康一より遥かに低い。露伴の行動原理のほぼ全てを占める好奇心がうずき始めた。
見てみたい、あわよくば盛大に笑ってやりたいと露半はその表情を引き出すために考え込む。

「(あいつのいいところはどこだ。ぼくはあいつが大嫌いだし、別にあいつを喜ばせようとしているわけじゃあない。ただあいつの照れた顔を見て腹がよじれるほど笑ってやりたいだけだ)」

ただ、名前を照れさせるなら、本心から言わなくてはならない。そしてそれを成功させられるほど、露伴は名前のことをよく知らなかった。考えれば考えるほど自分が名前のことを全く知らないことに気づいてしまう。

「(ああイライラする!どうしてぼくがあいつのことでこんなに頭を悩ませなくちゃあならないんだ!)」

だんだんと眉間に皺が寄っていくことにも気づかないほど没頭する露半に康一が苦笑した。

「何かないんですか?笑顔とか」
「ぼくはあいつの笑顔を正面から見たことなんてないぞ!それに君や億泰のアホに見せる笑顔がかわいいだなんて口が裂けても言うもんか!」
「(まさかここまでとは……)」

突然頭を抱えた康一を疑問に思いながら、露伴は再度思考を巡らせる。露伴の目の前に置いてあるコーヒーはすっかり冷めてしまった。露伴は自分が口を滑らせたことには気づかない。

「(というよりは、きっと無意識なんだろうなあ……先が思いやられる……)」

康一の切実な思いにも気づかずに露伴は必死に考える。
別に絶対に名前を褒めなければならないということはないのだ。褒める言葉が見つからないのなら、次の弱点が出てくるのを待てばいいのだから。それなのになぜこんなにも必死なのかと心にもやのような疑問を残して。

「(……そう言えば、あいつはぼくと口論するとき、決して目を逸らさない)」

それは、正しく名前のいいところではないのか。
露伴は偶然思い当たったことにはっと顔をあげる。視界には康一の驚いた表情が飛び込んでくる。脳裏には、発色の良い綺麗なエメラルドグリーンが浮かんだ。

「そうか……そうかそうか!悪いが康一くん、ぼくは用事ができた!」
「あ、あはは……」

露半は言うや否や、さっと身支度を整えて家を飛び出す。やはり康一の溢した苦笑なんて目に入らない。

「早くするんだ康一くん!」
「は、はい!」

自分の欲望に忠実な露伴の行動力はすさまじい。慌てて後を追ってきた康一が玄関から出てくると、こんな時間も惜しいと舌打ちしながら鍵をかける。

「カフェ・ドゥ・マゴですよー!」

康一が走り出した露伴の背中に声を張れば、いつものスケッチブックを片手に、露半はもう片方の手を挙げる。
これから起こることを考えて、緩んだ頬はしばらくのあいだ治まらなかった。


今すぐおまえを笑ってやる!



130730

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