JOJO成り代わり | ナノ

 金属製のトレイがカチャリと音を立てる。数度ほどチェックされただろうそれを受け取ればそれなりの重さが腕に乗る。透明な壁越しの会話もそろそろ慣れた頃だ。

「ありがとう」

「いや。君のお母さんは随分まいっていたよ」

「だろうな。母さんは寂しがりやだから」

もう一度お礼を言ってからトレイの上の物を見る。着替えに靴下と下着、7cm以下の歯ブラシとクシ、ビタミン剤。それから学校の宿題。順番に手に取って確認する。学校の宿題にはこうなるだろうと思ってあらかじめ札を少しだけ挟んでいた。俺は男だからエルメェスと会うことなどそう簡単にはないだろう。もしあったとしても金が必要になった後だ。もちろんそれまでに誰かから奪うこともできるかもしれないが、あるに越したことはない。金は後で抜き取っておこう。

「そうだ、そのお守りは離婚した君のお父さんが息子の君が困ったときに渡すようにとお母さんに言った物らしい」

俺がペンダントに手をかけると弁護士がそう言った。もちろんすでに知っていることだったから、適当にふうんと頷いてロケットを開ければ矢の破片が出てきた。指を傷つけないようにそっと持ち上げる。その下には父さんと母さんと、俺が映った写真。
 そういえばあの時はカメラを前にして笑顔が引っ込んでしまった俺を両親が笑わせようとしたんだっけ。特に父さんが不器用なりにも俺を必死に笑わせようとする姿があんまり面白かったからもっと見てみたくてわざと笑いを耐えていた。だってあの空条承太郎が必死で息子と格闘してるんだぜ?最終的に根負けして笑ってしまったのだが、そのときの父さんの安堵した表情がまた笑いを誘った。
 あの頃は楽しかったな、なんてなんだか懐かしくなって少し笑ってしまった。




 野球のユニフォームを着た少年に止められたが、彼が来ている以上会いに行かないわけにはいかない。たしか面会は個室だったか。看守と面会人と手錠を掛けられた囚人が一つの部屋に集まる。しかもその部屋が囚人を入れておくには普通過ぎるのだから中々お目にかかれる光景ではないだろう。見られるからと言って嬉しくもないけれど。
 看守に入れと促されて部屋に足を踏み入れる。見知った広い背中には大きな星が輝いていた。ゆっくりとこちらを向いた父さんがほんの少し安心したように見えた。

「母さんにあずけておいたペンダントは……」

「ちゃんと持ってるよ。……久しぶりに会ったのに、一番がそれ?」

「ああ……久しぶりだな、徐倫」

「久しぶりだな、父さん」

父さんは会いに来るなって母さんに伝えてもらったのに、無駄になったな。おそらく今までちっとも動かなかったペンダントの発信機が大きく動き始めたからSPW財団が感知したのだろう。それが父さんに伝わって、というわけだ。
 父さんがここに来なければそのまま隙を見てプッチ神父を始末するつもりだった。来てしまった以上仕方のないことだが、なるべく父さんのディスクは守りたい。とは言っても、最悪盗られてしまっても奪い返せばいいだけの話だ。

「とりあえず座ろう。立ったままは疲れる」

「……そうだな」

席について、父さんの話を聞く。看守はすでに眠たそうに欠伸をしていた。他愛も無い話を続けて、看守が眠りこんだのを見届けて父さんは本題に入った。懐から写真を取り出して口を開く。

「おまえの関わった事件は仕組まれたものだった。ジョンガリ・Aという男がおまえを嵌めたのだ」

「何のために?」

「……いつでも自由に、おまえを殺せるようにするためだ」

そう言う父さんの言葉は淡々としていて、これでは彼女が反発したくなるのも頷ける。愛情が無いわけではないのだ。父さんは不器用が服を着て歩いているようなものだ。だから本気で心配していたのだろうし、さっきの安堵した表情が全てを物語っていたように思う。今も話すことを少し渋っていた。
ただ、一つ言うなら、ジョンガリ・Aの狙いは俺じゃあない。父さんなんだよ。俺は父さんをおびき寄せるための餌。あんたはこんな簡単なことに気づかないほど焦ってたのかな。愛されてるな、徐倫。
 目の前の父さんを見ると本当に思う。徐倫は愛されているんだって。彼女が気づけて良かったとも思う。もし気づけなかったら、彼女はずっと心のどこかに孤独を抱えていたんだろう。

(なのに、どうして俺が――、いや、今は止めておこう)

真っ白いテーブルに視線を落とす。考え込む癖は治さなくちゃな。これでは隙だらけだ。
今から、戦いが始まる。もしかしたらすでに始まっているかもしれない。エンポリオにもらった手の中の骨を握り締める。少し痛むけど、これから父さんに起こるだろうことを考えると何てことはない。

 スタンドの話を始めた父さんに頷きながらこの後のことを思い返す。何度も、それこそこの立場に生まれてからずっと繰り返してきたことだ。俺が考えられる全てのパターンを完全にスムーズに頭の中で描くことができる。油断はない。邪魔をするものは全力で倒す。

さあ始めよう。俺は"原作"を変える。
俺は、この「石作りの海」から自由になる。




石作りの海――ストーンオーシャン

130922

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