小ネタ | ナノ


0610 00:38

ルークさんが逆行する救済話
シンク救済時の会話を妄想なう


「僕は空っぽだ」

緑の少年は、呟く。
目の前にいる俺に語りかけるわけではなく、ただただ呟く。
まるで自分はこの世界に存在していないとでも言い切るように。

その呟きが、どうしようもなく確定的に聞こえたのは偶然ではないだろう。
自分が言っているわけではないのに、無性に泣きたくなったのは偶然ではないだろう。
なぜなら、俺はこの少年の叫びを知っているから。

彼と、目の前の少年の全てが同じだとは言わないし、思わない。
けれどやはり根本のところでは似通っているのだろうと俺は七年と十七年の頭で考える。
人は必ず望まれて生まれてくるというけれど、果たしてそれは確かな事実なのだろうかと考えると、どうにも決定打に欠ける。
なぜならそれを物理的に証明する術がないからだ。
それでもその不確かな空想を肯定するのは、それを信じたいからである。

かく言うものの、それは俺にも言えることだ。
誰に、何に望まれて生まれてきたのだろうと、そう考えると何一つとして浮かんでこないのである。
強いて言えば、ヴァンの計画に食いつぶされるため。
なんとも味気ない。
それでも、俺は、誰かの為に、何かの為に生まれてきたのだと、信じている。

「空っぽの何が悪いんだ?」
「何って……随分おかしなことを言うんだね、アンタは」
「俺としてはおまえの方がおかしなこと言ってるように聞こえるけど?」

よどみなく言えば、まるでゴミでも見るかのような目で見られる。
あまりにもひどいと思う。
けれど、彼のときは仮面に隠されて見えなかったその緑の綺麗な瞳が臨めるだけ幾分も良いのだろう。
俺はさらに続ける。
彼が消える際に残したことばに、俺が伝えることのできなかったありったけの思いを込めて。

「空っぽってことはさ、それだけたくさんのものを詰め込めるってわけだろ?」

それほど良いことは他にないのではないだろうか。
零を埋め尽くす一を。
足りないのであれば百を。
まだ足りないのなら千を。
俺たちは何かを求め、習得し、生かすことができる。
彼があの世界で培ってきたものが、決して零ではなかったように。

だろ?

そう言って左手を差し出せば、目の前の少年の瞳は大きく見開かれた。
彼でもこんな表情はしなかったと思うと、それだけでどこか嬉しくなる。
少年ができる表情なら、きっと彼もできたはずだから。
彼は、ちゃんと人間だったんだと思えるから。
控えめに触れてきた細い手をとって、俺は微笑んだ。


∴0と1の境界線



シンクという名前が真空から来ているならどうにも切なくなるのですが、この思いはどこへやればいいのやら。

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