糖度はごく高め3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その日の帰り、レイに言われたとおり駅前に寄ってみた。
予想どおりそこはバレンタイン、バレンタイン、バレンタインの文字であふれかえっている。
赤やピンクの包装紙がひらひら踊る中を、ムツは少々居心地の悪い思いでひとつひとつ見て回った。
「へぇ、いろいろあるんだなぁ…」
レイの言っていたトリュフひとつにしたって様々な種類がある。
ムツはへえおもしろいなと思ったが、同時にこれは中々決められないぞ、とうんざりもした。
昼食はうどんかそばかの二択で延々悩める自分には、酷な選択肢の数である。
「…あれ」
ふと、ムツの目がある棚に止まった。
そこは周りの華々しい雰囲気とは少し違い、おとなしめの装飾がされている。
甘ったるいチョコレートたちに辟易してきていたムツは吸い込まれるようにその棚へ近づいた。
「…『簡単手作りチョコ』、ねぇ…」
その棚に並べられていたのは、簡単にチョコレートが作れる材料付きのキットであった。
なるほど分量も既にはかられており、あとは牛乳やら生クリームやら、家にあるものを混ぜれば完成する寸法らしい。
その分簡素な仕上がりにはなりそうだが、ムツはこのちまちましないところがとても気に入った。
山と積まれた色とりどりの包装紙たちからひとつを選ぶよりもずっとずっと簡単だ。
それに、レイが言っていたトリュフのセットもあるし。
これにしよう!
ムツはこの結論に非常に満足し、トリュフセットと書かれた箱をひとつ手に取った。
そして、意気揚々とレジに向かっていったのだった。
「…さあて、と」
帰宅したムツは、両親が仕事でいない間に早速チョコレートを作ることにした。
キットの箱を開けると、チョコレートや型などが詰め込まれていて、それを見ているとなにやら「チョコをつくる」という意欲が湧いてくるから不思議である。
「混ぜるだけなんだから、簡単だよね」
普段からおおざっぱな自分でも、混ぜるだけなんだから出来るはずだ。
そう、混ぜるだけなんだから。
ムツはキッチンのテーブルに並べられた器具と材料を見つめ、うん、とひとつ頷いた。
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