短編&Cherry | ナノ




不治の病に等しいの2


「今日ぼくの知らない女の子と話してたよね」


おれの部屋に入ってきた途端そう口を開いたグレイシアに、おれはしまったと頭を抱えた。

見られていた。油断していた。

いくら中等部棟だからって、グレイシアから、逃げられるところなんか無いって一番わかっているのはおれだったのに。


「楽しそうに話してたよねぇ…とっても可愛い子だったな」

「グレイシア聞いて、違うんだ」

「言い訳なんか聞きたくないよ」

きっぱりとおれをはねのけ、グレイシアは後ろ手に部屋の鍵を閉めた。

俯いた顔は表情を窺い知ることは出来ない。彼の怒りがいかほどなのかはかりかねていると、ぽつりとグレイシアが呟いた。


「大好きなんだ…」

絶望しているとも、泣きだしそうだとも形容できる声は、微かだったのにも関わらず、不思議とおれの動きを止めた。


「ねぇ、大好きなんだよ、ブラッキー…ぼくは…お前だけなんだ…」

「ぐ…、」

「それなのにどうしてあんな女の子と話したりするの?ぼくが嫌いになった?こんなにぼくはブラッキーが大好きなのに…酷いよ、ブラッキー…どうしてなの…」

「ぐ、グレイシア、落ち着いてっ…おれだってグレイシアが大好きなんだ、」

「嘘だッ!!」

虚ろな目で、グレイシアが叫ぶ。その声の悲痛さにおれは息を呑んだ。


「…ブラッキーは…ブラッキーは、ぼくのものなんだっ…ブラッキーはぼくがいなくっちゃ何も出来ないんだ、ぼくがついていてあげなくっちゃ…それなのに…それなのに…」

「ぐ、ぐれいし…」

足元をよろめかせ、グレイシアがおれを睨み付ける。
闇よりもまっくらな瞳は、けれどおれを突き抜けて、恐らくあの時話していた女を射抜いているんだろう。グレイシアは両手をわななかせながら顔の前に広げると、親の敵でも見るかのような表情で歯を食い縛った。


「ああ…可哀相なブラッキー…あんな雌豚にだまされて…汚されちゃうっ…ああ…ブラッキー…ブラッキー…、う、うう…うぅっ…」

ずるずるとその場にしゃがみこみ、グレイシアは顔を覆ってしゃくり上げた。どうやら今日は暴れる気分じゃないらしい。
そのことにほっとしつつも、暴れてくれなかったことが淋しいとか、暴れるより泣かせてしまったことが悔しいとか、そんなことを思ってしまうおれもきっと異常なんだろう。



[ TOP ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -