短編&Cherry | ナノ




隠せない嫉妬心4


「私を怒らせて当惑するぐらいなら」

いったん言葉を切った彼女はゆるく口許を上げた。
そして真っすぐ私を見る。

「最初から怒らせない言葉を言いいなさいよ」

瞳は彩りが鮮やかに楽しそうに見えた。

雨はまだ激しいままで、傘が無意味な斜め降り。
窓には上から下へ流れる雫がカーテンみたいに視界を遮断する。


「スミレちゃん」

「なに?」

「私のこと好き?」

「キライじゃないよ」

「私も好きだよ」

ゆっくりと唱える言葉。
私は好きだよ、じゃなくて、私も好きだよ。

彼女と同じなんだと強調するように、ひと文字ずつ丁寧に音にする。
混じり合う視線の中、交わされる会話。

『私もだよ』

優しい光を帯びた彼女の瞳がささやく。
うん、思わず頷いてしまった私を見て彼女はまた口許をゆるませた。

あーあ、雨なんて早く止んでしまえ。
彼女を無条件でご機嫌にさせる雨なんて好きじゃない。

ブルーの傘を手にした背中に、いってらっしゃい、と声をかければ、いってきます、とやっぱり上機嫌な声が返ってきた。

彼女はきっと数十分後には数冊の本を手にしながら、もっとご機嫌になって帰ってくる。
だから本棚に本が増えてゆくのは雨の日が多いの。

雨はキライじゃないけど、好きじゃない。
だけど、雨がキライじゃない彼女のことはとても好き。

まだまだ止みそうにない雨音が響くリビング。
さっきまで彼女が座っていたソファに腰を降ろして。
さっきまで彼女が手にしていた新聞を広げて。
怒られるのを覚悟しながら目の前のオレンジを飲んだ。

どうやら明日も雨らしい。


END.


100401

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