短編&Cherry | ナノ




些細な原因9


「君しかいらない、愛してる」

「………え…?」

奇妙な空気が流れ始めて気づく。

あ、これこそ誤解を招く。
どうしてこのタイミングで言ってしまったのか、自分でも説明しづらい。
たぶん、高貴だと崇める彼女を思い出したから。
伝えなきゃ、そんな使命感とも言うべき重大な責任が、状況構わず言わせたんだ。

あ…また自分らしくもない言い訳が。
そう、昨日から『らしくない』ことばかりを繰り返してる。

「クゥちゃん?」

「ナギが、スミレちゃんに伝えてくれって」

探るような目とぶつかって慌てて追加する。

「ナギが?」

「うん、『君しかいらない、愛してる』って」

「な…バカだよ、バカにしてる!」

文句を言いながらも隠しきれてない嬉しそうな瞳や仕草。
なんだかその様子を見ていると俺まで浮かれてくる。

「確かに伝えたからね、ナギからのメッセージ、『君しかいらない、愛してる』って」

「ちょっ、クゥちゃん!もういいよ」

ゴシゴシっとタオルで頭を拭くふりを、誤魔化すその姿に笑いが込み上げる。
湯上がりの頬に、さらに熱を集めたあの人。
大問題は解決したのか、それとはまた別の話なのか、彼女の中では何かが動いたようで。

俺の役目は終わったんだと、少し淋しく思えるのはなぜだろう。
保護欲か、それとも…。
いや、季節がそうさせる人恋しさか。


「スミレちゃん、今日は小春日和」

スイッチを入れたテレビはちょうど天気予報を知らせてた。
最高気温は昨日よりプラス2度。
最低気温はプラマイゼロ。

「外が歩きやすいね」

寒がりなあの子がカーテンを開けながらふんわりと微笑む。
とても幸せそうに。

いつも願うのは彼女たちの幸せ。
悲しみが訪れることなく、幸福に過ごせる日々を、平穏をあの子に。

『君しかいらない、愛してる』

この言葉であなたが満たされると知って、何度でも伝えたように。
ただ願うあなたの幸せ。

嗚呼、自分らしくなくさせる理由は過度な友情のせいなのか。
まだまだ説明には時間がかかりそうだ。
彼女らの傍に居るかぎり。


END.


100401

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