短編&Cherry | ナノ




些細な原因8


「スミレちゃんが風呂から上がったら伝えるよ」

『お風呂?…クゥちゃん、覗きは厳禁だからね』

「宿泊代として」

『ダメダメっ!絶対ダメ、スミレちゃんの裸は高貴なんだら』

「高貴だと思うならもっと丁重に扱うべきだよ」

疲れと涙を浮かべさせるような扱いだなんて、有るまじきことだよ。
あの子のテリトリーに最も安易に出入りできる存在として。

『うん…私が甘えてたんだよね、スミレちゃんに』

「優しく強いからね」

『だけど脆く弱い』

だから、そんなあの子をみんな好きなんだ。
両極端なモノをバランス保って歩く姿に魅かれ、崩れそうな時には手を差し伸べたくなる。


「しっかり伝えるから」

『よろしくね、クゥちゃん』

ありがとう、と最後に響いた優しい言葉。
パタンと閉じた携帯電話。
再びテーブルの下に手放したのと同時。

「クゥちゃん、ありがとう」

あの子がリビングに現れた。
艶やかに濡れた毛先は雫を溜め、上気した頬は薄い紅を彩る。

『高貴なんだから』

力強く言い切った彼女の言葉がゆらりと浮かぶ。

(…高貴すぎると目に毒だ)



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