短編&Cherry | ナノ




些細な原因6


コーヒーを飲み終えカップと入れ代わりに、俺から受け取ったタオルを手に浴室へ向かう背中。
扉が閉まる音がして、まもなくシャワーの音が聞こえ始める。
一連の音が十分耳まで届いたのを確認して、昨晩からテーブルの下に置いたままの携帯電話を掴んだ。

『不在着信 2件』

2件とも着信ランプを灯していたことは知っていた。
1件はいま浴室にいるあの子がココに来てすぐ、もう1件はついさっき、コーヒーを入れてソファに戻ってきたとき。
電話を鳴らした相手は予想、というより確信に近く、はっきりと名が浮かぶ。

そろそろ連絡をしないと厄介になるだろうか?

携帯電話の画面に着信履歴を呼び出し、最新の履歴ナンバーにそのまま通話ボタンを押す。
ナンバーが発信されている画面を見ながら、コール回数を数えてみたり。
彼女に対して随分と意地悪になったなぁ、と改めて感じる。
きっと彼女たちとの馴れ合いがそうさせるんだ。

3度目のコール音が鳴り始めた瞬間。

『遅いよ、クゥちゃん』

少し低く不機嫌そうな声が聞こえてきた。

「責める対象が違うよ」

『…ごめん』

「謝る対象も違う、直接本人に繋げばいいのに」

人を介すと時に事象がこじれとねじれを起こすから。



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