短編&Cherry | ナノ




些細な原因4


「クゥちゃん」

「ん?」

飲み終わったカップをキッチンに運ぶ途中、呼ばれて引き止められる足。

振り返ると、俺をじっくり捕らえながら、

「あ…ううん、何でもない、ごめん」

少し困ったように笑って、また視線が堕ちていった。
数秒だけ合わさったほんのり潤んだ瞳。
言いかけて飲み込んだたくさんの言葉。
自らふさいでしまった溢れそうな想い。

『なにがあったの?』

素直に聞けたらどんなにいいか。
きっと一緒に暮らす彼女が関係してる。
だけど、介入はしない、そういう主義。

「スミレちゃん、そろそろ寝ようか?」

静かに声をかければ小さく頷く。

時計が知らせる時刻は24時24分。
デジタル数字が偶然にも2ケタを仲良く揃えてた。



微かな物音で目が覚め、ぼんやりと天井が視界に入る。
夜明けの薄暗さ残る外の光が、カーテンの隙間から漏れて部屋も少し明るい。

「ごめん、起こちゃった?」

突然の声に驚いて辺りを見回すと、俺が寝てたソファの向かい、テーブルを挟んであの子が座っていた。

「おはよう、スミレちゃん」

「おはよう」

「早いね、いつもこんなに早いの?」

ソファから起き上がって、背筋を伸ばしながら、毎朝しているようにキッチンに入りカップを取り出す。

「ううん、やっぱりクゥちゃんに悪くて」

リビングから聞こえてきた声主は申し訳なさそうに小さく笑った。
その表情は微かに疲れをにじませる。
不眠を知らせる赤いフチの瞳。



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