些細な原因3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「落ち着いた?」
リビングのじゅうたんに腰を降ろしたあの子に、自分は決して飲むことがない甘めのホットミルクティーを渡す。
「ありがとう」
受け取る手はまだ冷たそう。
まだ日中は日差しがあるといえど、もう冬のはじめ、陽が暮れれば肌寒く、夜中ともなればまとわりつく空気が寒々しい。
どれぐらい外に、この子はいたんだろうか。
短いはずはないあの手の冷たさ。
きっと迷って、悩んで、長く歩き続けてココまで来たはず。
「クゥちゃん、もう寝るところだった?」
「うん、もう少しで、でも大丈夫」
少しは落ち着いたのか、俺の言葉を聞いてカップに視線を落とす。
まだ湯気が立ちのぼるミルクティー。
慎重になにかを考えている横顔。
「あのね、こんな時間に来てこんなこと言うのも非常識だと思うけど…泊まらせてくれないかな?」
伏せたままの瞳がゆっくりとまばたきを行う。
反応が一瞬だけ遅れそうになって、だけど沈黙はこの人を不安にさせるから。
「いいよ」
「…ごめんね」
何度か聞いた言葉が静かに紡がれる。
その後、お互い同時に口づけるカップ。
ゆらりとカップ内で波打つただの水が、なにかの栄養ドリンク剤みたいに眠気を吹き飛ばす。
今日は多くは眠れない気がする。
残った水を全部飲み干した。
← | →
[
TOP ]