短編&Cherry | ナノ




些細な原因2


インターホンが鳴ってから5分ほどが経った。
2度目のベルもノックも聞こえてない。

エントランスでうまくエレベーターを捕まえられたら、とっくに着いてもいい頃。
この時間、住民たちのほとんどは出入りをしないため、エレベーターもすぐに1階に呼べるはず。
なのに、どうしてあの子は未だに辿り着かないのだろう。

(…なにかあった?)

迎えに行かなきゃ、そう強く感じて向かう玄関。
扉がこんなにも重く感じたことは初めてで、なぜか手先に力が入る。
ぐっと押した扉の向こう側、見えたのは壁に寄り掛かって座り込むあの子の姿。

「スミレちゃん!?」

「あ、ごめんね」

こんな時間に、と上がった顔には苦しそうな笑い。

「とりあえず中入ってから」

それから話は聞くから。
目の前に差し出した手をあの子はぼんやり眺め、ワンテンポ遅れて掴む。

予想してたよりもかなり冷えた手が痛々しくて、思わず強く握る。
滑り落ちないように、消えてしまわないように。

「クゥちゃん、ごめん」

立ち上がったあの子は、やはり小さな声でもう一度あやまった。



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