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逆さまの子守唄


夜の帳が降りる頃。

正午あんなにも暑かった気温は、夜になると急激に下がった。
真夏の夜は湿り気を帯びた空気が漂い、雲一つない夜空に浮かぶ満月が開け放たれた畳の寝室を照らした。

四肢に掛かった薄い掛け布団が煩わしいが、寝巻きから出た素肌が空気に触れて慄る。
寒くはないが、冷たかった。

日付が変わろうかという頃、思わず身を捩らせた奏が天井を見つめていると、寝ているはずの隣に眠る悠が声を発した。

「眠れないの?かなで」

「ゆう…」

首を回すと此方を見つめる悠と目が合う。
夜の闇に濡れた彼の黒曜石のような双眸が、奏を射抜いた。

「…起きてたん?」

「奏がなかなか寝付けないみたいだったから」

「…ごめ、」

「まぁ寝付けないのもわからなくはないよ。少し満月が明るすぎるからね」

そう悠に言われて、奏は漸く思い至った。
いつもの夜と何が違うのか、漸くわかった。
すべては、あの炯々と輝く満月の所為。
ブラッキーに進化してからというもの、月が出ている夜はどうも落ち着けない。

不意に右手に何かが触れるのを感じた。
みると悠が手を重ねている。

奏は熱を持つ頬を誤魔化すように、手を握り返した。
温かいと思っていた彼の手はひやりとしていて気持ちがよかった。

繋がる、ということの意味がわかった気がした。

彼の熱がてのひらを通して、此方に流れ込んでくる。
互いの熱を交換するように、手を握りしめる。

「ゆうの手は、冷たくて気持ちいいし」

「そう?それはよかった」

「…眠れそう、」

「明るくない?」

「…大丈夫、」

次第に落ちる瞼。
視界が霞んでゆく。
意識が遠のいて、混濁していく。

微かに、頭を撫でるてのひらの感触を覚えた。


END.


何か変わったのかといえば、特に性格の変化はないんじゃないかな。
ただ、若干、大人しくなっているんじゃないかな。


101126


書きたかったのは性格の変化じゃなくて月の明るさと、悠の手を冷たいと感じることだったりする。

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