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Liebesbrief1


何も書かれていない便箋を目の前にして私は腕を組む。
首を大きく捻ってみても何も変わらないが何かが変わるかもしれない。
顎に手を当てうん、と唸る。
声を出せば何かがぽつん、と、それこそ今しがた急に降り始めた天気雨のように突然現れるかもしれない。
しかし現実は暫く経っても何も変わらない非常に残念なものだった。

ラブレターを書こうと思った。
唐突に思い付いたのだ。
そう、いつもの思い付き。

貰ったことはあっても書いたことなんてない。
それじゃあ勿体ないと思いカラフルなペンと花が散りばめられた綺麗な便箋を机の上に用意した。
しかし肝心の言葉が思い浮かばない。

書き手側になって初めて分かったことだけど、これは相当難しい。
何を書いていいのかさっぱり思い付かない。
やっぱり首を捻って考えてはみるもののなかなか文面が思い付かない。


「変な顔をして何を考えているの?」

顔を上げて声のした方向を見ればこの家の主がこちらを向いていた。
無断で入ってきた私を叱るでもなく、さも当然のことであるように私を招き入れる優しい相方。

「変な顔とは失礼だし」

私が睨みを利かせれば彼はふふっと小さく笑う。
彼は笑うと口元の右端が左端よりも上に上がる。
きっと私しかしらない彼の特徴。

「だって本当に変だったんだもの」

そういえば今日は出掛けると昨夜口にしていたっけ。
でも彼は天気雨に濡れた様子はなく、そのまま自然な態度で私の隣に座る。

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