Vanilla | ナノ




Buchty3


と、そのとき。
私は廊下の向こうにちくちく頭を見つけ、大慌てでその名前を叫んだ。

「光乃くーん!」

「んあっ!?」

こちらに気付かずに歩いていた光乃くんは、大声で自分の名前を呼ばれたことに驚いて立ち止まった。
しかし、ゆうにべったり張りつかれ、真面目面の雫ちゃんと向かい合わせになっている私を見て、なにかを悟ったのだろう。
すぐにあきれ顔でこちらへやってきてくれた。

「なにしてんの、そこ…」

「わーん、助けて光乃くん!二人がいじめるんよー!」

「いじめるなんて語弊も甚だしいよ奏、俺たちは奏のためを思ってだなぁ」

「そうそう、奏さんが意地ばっかり張るから…」

「あー、わかったわかった!で、なにがなんだって?」

一度にわめく私たちを宥め、光乃くんが訊ねる。
そこで私は今まであったことを簡単に説明した。

「かくかくしかじか、こういうわけなんよ」

「なるほど、小説は便利だ」

「というわけだから、光乃くんは私の味方になって、雫ちゃんにお饅頭を食べさせるし!」

「はぁ…。まあ、別に良いけど」

光乃くんは苦笑ぎみにへらりと顔を緩ませ、雫ちゃんに向き直った。

「んじゃ、まぁ雫ちゃん、饅頭食べなよ」

「あはは、光乃やる気ないなー」

「ほっとけよ、悠」

「私は本当にお饅頭いらないんですけどねぇ」

雫ちゃんが頬をポリポリかきながら言う。
私はそれにちょっと不安になって、「もしかして、」と彼女を見上げた。

「雫ちゃん、お腹が痛いとか、そういうのでお饅頭いらないん?」

「え?いえ、別に?」

「お饅頭嫌い?」

「大好きですけど」

「じゃあ、やっぱり雫ちゃんが食べるべきだし!」

「でも奏さん食べたいんでしょう?」

それを言われると言葉に詰まる。
反撃出来ない私の背中で「いつもそんな態度とってればかわいいのにー」とかなんとか言ってるゆうの頭はとりあえず殴って、私は困り顔で光乃くんを振り返った。

「光乃くん、ずっとこの調子なんよ。雫ちゃんは優しすぎる!」

「うーん、じゃあ…雫ちゃん」

「なんですか?」

「この饅頭を食べてくれるなら今日の夕飯は俺が作ろうか、雫ちゃんの好きなの作るよ」

「えっ、なっ…!」



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