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Buchty2


雫ちゃんは頑なな私の態度にちょっと困ったふうに眉をひそめ、「別に良いのに…」と言って笑った。

「なんだか、涎垂らして『待て』をしてる犬から餌を取り上げる気分」

「どんなだし…」

「だから、今まさに」

「…そんなにお饅頭食べたそうに見える?」

「すごく」

「でも、これは雫ちゃんが食べてよ」

「えぇー」

そう言って雫ちゃんは笑ったまま腕を組んだ。
見た目通り大人びた考えの彼女は、きっと自分の取り分が少なめになったことにも構わず、如何にして私にお饅頭を食べさせるか考えているんだろう。
そうはいくもんかと私も妙に肩に力を入れて見返した。

「私は、食べないから!雫ちゃんが食べなきゃ駄目だから!」

「私は奏さんが食べるべきだと思うんですけどね…」

「そうだよ、そんな意地張らずに奏が食べればいいのに」

「うわっ、ゆう!」

「びっくりした!」

私と雫ちゃんが同時に驚いて振り向いた先には、私の背中にべったり張りついて「仕事しないで半日何していたのさ」と言うゆうの姿があった。
ここは仕事場だからいるのは当然だけど、いつからいたんだ。っていうか、どこから覗いてた。
しかしゆうはそんなことは無視して、ごく当たり前のように「奏食べなよ」と先ほどのセリフを繰り返す。

「さっきから見てたけど、なんか奏俺の前と随分態度違わない?いつもさも当然のように何も言わないで俺のお菓子食べるくせに」

「えー、それはやっぱり悠さんだからでしょう?」

「悠はちょっと黙ってるし」

「でも奏、食べたいんだろ?」

「うっ…」

「ほらー、食べたいなら遠慮せずいつもみたいに食べれば?雫ちゃんだって良いって言ってるんだから。ねぇ?」

「ええ。私なら気にしないですし。奏さんどうぞ」

「う、うーっ…!」

まずい。この流れは非常にまずい。
雫ちゃんにゆうまでが勧めてくるなんて(ゆうの言い方には多少気になるところもあるけれども)、私もちょっと食べても良いかななんて気になってしまう。

しかし駄目!掃除を一緒に頑張った雫ちゃんの取り分まで多めに食べてしまった私の罪悪感がチクチクと痛む。

私はこういうところが駄目なんだ、いつもちょっと考えが足らずにやらかしてしまうのだ。
ほかの人は仕方ないなぁと笑うだけだけど、私自身はあとから気に病むことがたびたびある。

普段はゆうがそばにいてなんでもかんでもやってしまうから露見しないけど。
雫ちゃんも優しいから許してくれるけど。

だけど駄目だし!
自分で自分にけじめをつけるためにもこのお饅頭だけは食べてはいけないんだし!



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