Buchty1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「うまいしー」
「美味しいですね」
少し西へ傾いたお日さまが暖かいある冬の日。
顔を見合せ同じことを言い合いながら、私たちは目の前に大盛になったお饅頭を次から次へとつまんでいく。
「実にうまい」
「ほんと」
真っ白に蒸された皮は薄くもちもちとして、中には絶妙な甘さで炊き上げられた粒餡がたっぷり詰まっている。
仕事場の近くにある食堂のプクリンさんの自信作。
だらだらと歩いているところをプクリンさんに捕まった私と雫ちゃんが、半日掛かりの食堂の大掃除と引き換えに手に入れた、極上のおやつでもある。
「はー、疲れた体に甘さがしみる〜」
「あはは、奏さんなんか年寄りくさい」
「年寄りさくて良いし〜、プクリンさんのお饅頭私大好き〜」
頬っぺたが落ちそうな甘さにほやほやと表情をだらしなくさせ、私はもう一つとお饅頭に手を伸ばす。
そんな私を雫ちゃんは呆れたふうに見ていたけれど、すぐに「確かに美味しいです」と笑って、手にしたお饅頭に齧りついた。
しかし、その直後。
「…あれ?」
続けて舌鼓をうとうとした、私の伸ばしかけた腕はぴたりと止まってしまった。
「…もうこれだけ?」
「ほんと。いつの間にかあと一個」
あれほど沢山のお饅頭があった大皿の上には、今や小振りのお饅頭がただひとつ、ぽつんとある他にはなにもない。
「奏さん、凄い勢いでしたものね」
「うっ…。ご、ごめん…」
「あはは、良いですよー」
「いや、ごめん、ほんとごめん!」
調子に乗って少々食べ過ぎてしまったことにようやく気付き、私は大皿を前に恐縮する。
「…雫ちゃん、最後の一個食べなよ」
涎が出そうな思いではあるが、そう言って私は大皿を雫ちゃんの方へ押し寄せた。
「私はいっぱい食べたし」
「ん?別に食べても良いですよ。私だっていっぱい食べましたし」
「でも、絶対私の方が食べちゃったし」
「食べたいなら奏さんが食べたほうが良いんじゃ?」
「いや、これは、雫ちゃんに譲るし」
なんだか堂々巡りな会話をたち切るため、私は雫ちゃんの申し出に首を振った。
確かに食べ足りないと言えばそうだけど、ここで甘えることはとても出来ない。
掃除を頑張ったのはお互い一緒。
ならばご褒美だって一緒じゃなくちゃならないじゃないか。
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