Vanilla | ナノ




doux


あれ?
どっちだっけ。


不意に浮かんだ疑問に、思わず両手を見つめる。


「何してんの、雫ちゃん」


不思議そうな表情で、光乃さんは私を見ていた。


「いや、手を繋ぐ時って私が右手だったら光乃さんはどっちかな、って思って」


「それって、今必要な事なの?」


尋ねられて首を傾げた。


「いえ、特に今絶対必要!ってわけじゃないです」


でも、気にし始めたらやたらと気になる。


「雫ちゃん」


諦めずにしつこく手を見てたら、光乃さんが呆れたように嘆息した。


「右手貸して」


「?はい」


言われるままに差し出したら、光乃さんの左手にきゅと包まれた。


「手を繋ぐってこういう事?」


抑揚なく告げられた言葉にこっくりと頷く。


「ちなみに、雫ちゃんが右手で俺も右手だった場合」


言いながら、手が離れて今度は右手に代わった。
そして、ちょっと苦笑いしながら『間抜けだよな』なんて呟いている。


「そっか、同じ手だと握手ですもんね」


よくよく考えれば至極当たり前なんだけれど。
何故かそれが妙に嬉しくて、私は笑ってしまう。

そしたら、光乃さんの空いてた手が私の頭をふわりと撫でて。


「本当、可愛いよな、雫ちゃん」


なんて、やけにしみじみ囁くから照れてしまった。

顔を赤くしてる私を見て何を思ったのか、光乃さんはそうそう、と小さく洩らしながら手を離すと、何故か私の後ろに回った。
背中が温かい。


「あ、光乃さん!?」


慌てて振り仰ぐと、口元に笑みを湛えたまま光乃さんは両手を私の手に重ねた。


「後ろからだと、同じ方の手を繋いでても、新鮮に感じるだろ」


新鮮というか、むしろ恥ずかしい事この上ないんですが!
やたら得意げに言われてしまったので、私は恥ずかしさなんて忘れて、そうですね、って答えた。


「でも、これ外でやってたらただのバカですよね」


勿論、突っ込む事も忘れなかったけど。


End.


8/7〜11/21までの拍手文

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