nociw1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さらさら、と、風に歌う枝は涼やかに。
どこからか切り出されて運ばれた笹は、けれど未だみずみずしい緑を失わず、風に任せて枝を泳がせる動作は楽しげにさえ見える。
願い事を枝一杯に吊らされて、果たして重くはないのか。
色とりどりの想いの重さに、倒れてはしまわないのか。
思わずそんな心配をしてしまう程、暗闇に浮かぶ笹の葉は数えきれない程の短冊に包まれていた。
けれど、自分だって今正に右手に握り締めた願いを託そうとしているのだから、なんとも矛盾している。
隣の彼女に、頭の中を覗く能力が備わってないのが幸いだ。
(もしこの矛盾した馬鹿馬鹿しい考えを彼が知ったら、文字通り馬鹿にされる!)
(なんて情けない!)
「奏はさ、短冊吊さないの?」
細い紐を結びつけつつ問いかけると、笑みを返された。
「私は誰にも頼らないし」
いつも仕事を押し付け頼ってくるのはどこのだれだか。
しかしまあ、かっこいい。
どうせ俺は神頼みで望みを叶えようとする横着者ですよーと卑下してみせれば、全くそうだし、と涼しい顔で肯定される。
なんだかむなしい。
新しく、黄色い短冊が風に揺れる。
「わざわざ夜、町に連れ出したかと思えば、こんなこと…」
「来て下さって大変嬉しく思います、ありがとうございます」
「いくら感謝されてもし足りないくらいだし」
すぐ顔の前をひらひらと舞う短冊を、無意識なのか一生懸命目で追いかける奏はまるで猫じゃらしを前にした猫みたいだ。
正直、すごく可愛い。
くるくる忙しく動き回る黒い瞳。
その内両手でむしり取ってしまいそう。
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