Vanilla | ナノ




felicidad


「……ん、」


カーテンの隙間から漏れ入る光に奏は寝返りをうつ。

反転して軽く腕をのばしたらなにかにあ当たって、ぼやぼやとしている頭で彼だと知る。
無意識のうちに微笑んで、そのまま抱きついた。


「かな、どうしたの?」


どこかぼんやりした声に呼ばれたけれど、奏は答えずにむーっとうなって胸元に額を押しつけた。
頭を撫でられる感触がここちいい。


「んー、もっと」


なでて。

夢現の中でぽやんとした声で、ねだる。

頭をなでてもらうことが奏は好きだ。
他の誰かにされたら、子供扱いするなと怒るところだろうが。

ゆうは、トクベツなんだし。

声にならない声。
でも、届いているという確信が、どこかにある。

もう身になじんでしまっている、悠の匂い。
彼の部屋はそこかしこに、彼の気配が漂っていて、ひどく落ち着くのだ。


「寝ぼけているの?」


優しい声が、耳に落ちる。

ちがう、ねぼけてるわけじゃなくて。


「ふれて、いたいんだし。ゆうに」


少しでも、わずかな時間でも、触れていたい。
傍にいて、抱きしめて抱きしめられて。

知らないかな、気づいてないかもしれないけど、ゆうが思う以上に、私はゆうに依存してるんだし。


「そんなこと言われたら、俺、調子に乗るよ?」


困ったような口調なのに、心底嬉しいって声で囁かれたって、奏はちっとも困らない。

こめかみのあたりにキスが落ちてきて、嬉しくってくすぐったくて身をよじる。
されるがままもいいけれど、ちょっとした意趣返しを思い出して、奏は悠の背に回していた手をそっと離した。

おぼろげだった意識も、いつのまにか覚醒していて、頭の中にあるのは、ちょっとした悪戯心だった。


「って、かなっ!?」


焦ったような悠の声に、ほくそ笑む。

投げ出されていた手をつかんで、互いの指を絡めるようにつなげて、そっとキスをした。


「あのなー、ゆう」

「うん?」


視線が絡む。

妙に緊張している悠の目が、奏だけを映す瞬間が好きだ。
その瞬間、悠の瞳は柔らかな熱を持ち、溶けてしまいそうになる。

それがたまらなく、嬉しいのだ。


「ゆうばっかり私のこと好きみたいに言うの、禁止な」

「え」

「え。じゃないし、多分好き度なら、私の方が上だと思うし」


わからないって顔をするから、ちょっとおかしい。
多分、本当にわからないんだろうな。

奏に対しては、無償すぎるほど無償の愛情を注ぐのに、自分のことになるとめっきりな彼だから。


「わからないならそれでもいいし。わかるようになるまで、言い続けてやるんだから」


好きだよ。
大好き。

何年たったって、どんな風に自分たちの世界が変わっていったって、これだけは変わらない。


そう、断言できるほどに。
きみが、大好きなんだし。



END.


111121


奏を幸せにしようと思ったら悠が幸せになったというかなんというか。

とりあえず、久しぶりに甘い話書きました。
当分、甘いものは遠慮します。

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