Vanilla | ナノ




pompoen 4


そうしてももちろん、奏の考えなんて読み取ることは俺には出来ない。
魔術師でも手品師でもない、ただ彼女のことが好きなだけの俺には彼の気持ちに確信は持てない。

でも多分、多分俺と同じことを考えているんだなってことくらいは分かった。


「多分、それが正解」


俺は学校の教師よろしく、うんと頷いてフォークで宙に丸を描いた。
途端奏は表情をころりと変えて嬉々として目を輝かせる。

どこか照れたように頬を赤らめて緩んでいく口元を伸びきったカーディガンの裾で隠そうとした。
それでも隠しきれずに口端が上がりきっていることは丸見えだった。

俺もきっと同じ表情をしているんだと思う。
外は寒く、秋風が吹き荒れているのに心は春が訪れたときのように弾んでリズムを刻んでいる。


「なあ、それならすっごく幸せなんだけど。これ夢じゃないよな?」

「ならこれ食べてみなよ」


夢ならきっと食べられるよ?とクリームとスポンジの欠片を乗せたフォークを差し出した。
うっ、と一瞬怪訝そうな顔をしたが奏は大きな口を開けてそれを咥えて飲み込んだ。
そしてすぐさまカップを手に取り紅茶でそれを流し込んだようだ。

ふう、と一息ついて此方を見た彼女は先ほどのように暴れ乱れることはなくどこか安心したように微笑む。


「やっぱり、美味しくないし」

「そりゃ良かった。夢じゃなかったね」


崩れたケーキはもう食べ飽きた。
からん、と音を立ててフォークを置けば奏は何か期待を含んだ瞳で俺を見つめる。

何も言わずに、ただ視線だけで訴えかける彼女に俺は根負けして立ち上がった。
勝った!と勝ち誇った笑みを浮かべて彼女は膝を抱えて丸まったまま、上を向いて瞼を閉じた。

今さらそんなに構えなくてもいいのに、と思いながらも俺は彼女の肩に手を置いて静かに口づけた。
たった触れるだけでもその唇は甘く感じた。

奏は両目を開けると、ジャック・オ・ランタンのように意地悪く笑う。

もう言わなくたって分かっている。
そんなことには慣れているのだから。


END.


111031


HAPPY HALLOWEEN!!

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