pompoen 3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「雰囲気は好きなのに、これがあるからハロウィンを好きにはなれないんだし」
椅子の上で丸くなった彼女の文句を聞き流しながら皿に腕を伸ばした。
そしてケーキだったものの残骸を口に運ぶ。
カボチャの甘みと生クリームが合わさって口の中に溶けていった。
やっぱり、美味いのに。
カボチャとして変に意識してしまうから食べられないんじゃないんだろうか。
そう言って彼女が持つ偏見を払拭させてパンプキンタルトを無理矢理食べさせ、その結果奏を泣かせたのは確か去年のハロウィンだ。
次いで空っぽになったカップにまた紅茶を注いでやる。
奏は腕の隙間から俺を見てありがとう、と小さな声で呟いた。
「なんかもう、慣れたよ」
他人よりも情緒不安定で気分屋でマイペースで我が侭な奏にはもう慣れてしまった。
きっと他人には嫌われてしまうことも俺は慣れきっているから全部普通にしか思えなくなっているんだろう。
そう意味を全部ひっくるめて口にすれば奏は思い出したように顔を上げた。
「だから私と離れないでいるん?」
まるで餌を待っている犬のようにきょとん、と小首を傾げて奏は問いかける。
皿を引き寄せ手元に持ちながら俺は頷いた。
砕けたチョコレートはビターだったようでカボチャと生クリームの甘さを絶妙に緩和している。
丁寧に端っこから食べる食べ方よりも奏のようにぐちゃぐちゃにしてしまったほうが正しい食べ方だったのかもしれない。
「普通だったら俺は離れてるけど、奏だから離れられないの。なんでか分かる?」
クリームだらけのフォークの先端を奏に向ける。
彼女はしばらく目を伏せて考え込んだ後、戸惑いがちに此方へ視線を向けた。
「分かったけれど…、でもこれでいいん?」
「ん?」
「私が考えていること、このまんまでいいん?」
奏は返答を待って俺の目を見つめ続ける。
俺は奏が考えていることを覗き見ようと目の奥を覗き込んだ。
← | →
[
TOP ]