Vanilla | ナノ




pompoen 1


「だからハロウィンなんて大嫌い!!」


そう言って奏は目の前に置かれたパンプキンケーキにフォークを思いっきり突き立てた。

ハロウィンらしくお化けやジャック・オ・ランタンがモチーフにされたチョコレート菓子がデコレーションされ綺麗に盛りつけられたそれを戸惑いもなくぐちゃぐちゃに崩していく。
どこかのB級のホラー映画よりもある意味グロテスクな光景だ。

テーブルクロスにまでクリームをはねさせて食卓を汚していく。
唯一の救いはこれが夕食を食べ終え、デザートの時間帯に入ってることだろうか。
とりあえず彼女はこれでも子供という年齢ではない、はず。

俺がついたため息が聞こえたのか、彼女は手を止めて俺のほうを見つめる。
若干血走った目がどこかのジェイソンや貞子よりも怖かった。


「いい加減食べなよ、意外と美味いよ?それに甘いし」

「どこがだし!変に甘くて喉に詰まる感じが私は大嫌いって知ってるでしょ!?」

「知らなかったらむしろ言ってないよ、とっくに黙って離れてる」


さらりと口にすれば今度は信じられないと目の色を変える。
誰だって好き合っている相手とはいえ目の前でこんなホラーショーをされたらドン引きに決まっているし、場合によっては離れるんだろう。
ちなみに俺はドン引きでは済まない後者だ。

奏は途端に大人しくなり、ケーキだった物の隣に控えめに置かれた白いポットに手を伸ばした。
知り合いから貰ったアールグレイのいい香りがこの場からは妙に浮き出た存在だった。

ずるずる、と伸びきったカーディガンの裾から指を出し行儀悪く音を立てて紅茶を啜る。
マナーなんて今さら口うるさく言うつもりはない。


「だって、これはある種の拷問だし」


大人しくなった奏は恨めし気に俺を見上げた。
体を小さくして、両手でお気に入りのカップに手を添えている。

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