Vanilla | ナノ




zimno 3


「あ…、もうちょっと待って、今から支度始めるから…」


「献立は」


「…え?」


「献立」


悠の視界の端には白い虫のような粒が舞い始めていた。
奏の声は平坦で、有無を言わせない響きがある。


「…お味噌汁と、」


「それと?」


続き促す相づちにせき立てられる。
舌が重くもつれてきた。
考え考え言葉をつむぐ。

出汁巻き。
鮭の焼いたの。


「……あと昨日の残りの、きんぴら」


悠がようよう言い終えると、


「だよね」


そんなもんでいいよね、と算段に気を取られたような呟きで奏が括る。

そこでようやく悠は気づく。
この話題から、自分がしめ出されようとしている。


「あ、俺が…」


思わず身を乗り出すと、奏が眇めた目でそれを制した。
視線一つでぴしゃりとはねつけるようだった。


「顔が青い」


奏はもう言い募る暇を与えなかった。

食い下がる相手の肩を押して寝具の上に沈める。
唐突にひっくり返った視界に、悠はごまかしようのない目眩に襲われた。

だめおしに畳まれかけていた掛け布団をやや手荒に被され、首もとまでしっかりくるまれる。

かなで、と弱く呼びかけてもとりつく島もない。
去り際に強く念を押された。


「寝てな」


起き抜けから窓も開けず、朝を迎える用意のないままだった部屋はそのまま閉ざされてほの暗くなった。

無理をして台所に入ってもまた追い返されそうで、悠はあきらめて目を伏せた。
視界を閉ざして血の巡りに耳を澄ませば、強制された休養に体がたしかに安堵している。

朝食の支度には奏が台所に立っているに違いなかった。
あとで昂輝に謝らなければ。
食事を作る片割れが急に様変わりして驚いただろう。


日々の営みから急に切り離されて、申し訳ないやら居たたまれないやら鼓動が奇妙に早い。
体調が不安を助長しているのかもしれないと思い当たったころ、ようやくうとうとしていた。

眠りに落ちる直前まで、寝てなと命じるように言った奏の厳しい顔がぐるぐると浮かんだ。



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