Vanilla | ナノ




zimno 1


目覚めた途端に体が重かった。
一瞬、「あ、だめかも」と思う。


けれど悠は閉じた瞼に力を込めて、ゆっくりゆっくり上半身を起こした。
体の重心の位置が変わったみたいに、妙に手足が重たい。

額に手を当てて熱を確かめようとしたら、自分の指の冷たさに驚いた。

はっきりしない視線をさまよわせながら、無意識に両手をすりあわせる。
ひたすら気だるい。


…冷たい…。

手に温もりが戻らない。
そうかといって、再び布団の中にもぐりこむわけにもいかない。

温かいお湯を張って手を浸したらどうだろう。
きっと気持ちいいし、頭もすっきりする。

思いついたらそれが何より良い案に思えて、悠は名残惜しい布団を離れようと立ち上がった。
拍子に足下が少しふらついても強いて歩く。


先日から昂輝と光乃の二人に、雫さんが泊まりに来ている。

やることは山ほどある。

朝はもう始まっているのだから。



熱めのお湯で、ついでに顔も洗ったらずいぶん気分が良くなった。
それに助けられて「もう大丈夫」と自分に言い聞かせるように繰り返す。

少しの体調なら忙しいうちに紛れる。

兎に角、食事の支度を始めて…、あ。
その前に布団畳んでなかった。

散らかってるのにほったらかしにされているものがあると思うと落ち着かない。
それだけさっさと片づけてしまおうと振り返ったら、


「っわ、かな」


悠の視界に飛び込んできたのは、起きぬけでぼやんと眠たげな顔をした奏。


「…はよ」


「おはよう、どうしたの?早いね」


「んー、何か。やたら早く目、覚めて…、……」

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