Vanilla | ナノ




Cerezos en flor2


「だね、やっぱビールも買えば良かった…」

「昼間っからお酒はダメですよ!」

私も同じく飲みたい気分だけれども、アルコールにさほど強くない彼が飲んでしまうと花見どころじゃなくなるうえに色々と面倒が重なってしまうのだから。

ちぇっ、とふてくされる彼はタバコに火をつけた。
紫煙は雲一つない青空の中へと吸い込まれるように消えていった。

タバコの煙がこちらに来ないように配慮してくれる、そんな小さな優しさが私は嬉しかった。

桜の花はそんな紫煙と一緒に風に揺れて散っていく。
一枚一枚、丁寧に剥がされてふわりふわりと宙に舞っていった。
時折強い風が吹いて地面に落ちてしまった花弁が巻き上がるように舞う様がとても美しい。

ふわり、とまた一枚花弁が舞う。
それは地面に落ちることなく彼の頭の上へ音もなく着地した。

それに光乃さんはもちろん、気づくことはない。

「付いてますよ」

笑いながら彼についた花びらに手を伸ばす。
お菓子が入った袋、一つ分広がっていた距離がふいに近づき、彼の顔が間近にきてしまった。

たった一つ、縮まった距離感に私はまるで初恋のような胸の高まりを覚える。
どこかくすぐったくて、気持ちが良い胸の鼓動。

しばらく固まって互いに見つめあった後、指先を動かしてそっと花弁を取ると彼の顔は離れるどころかさらに近づいてくる。
そしてしまいには近づきすぎて見えなくなっていた。

唇にはかさついた光乃さんのそれが重ねられている。
予想していた苦いニコチンの臭いではなく、甘いチョコレートの味が広がり私は離れた彼の顔を見ながら思わず自分の唇を舐めてしまっていた。
その唇はとても、甘い。

「なに、誘ってるの?」

どこか楽しげに笑う彼に私は顔を赤くして首を横に振った。
誰がこんな場所で欲情するものか、と否定しながら。



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