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雪と白


「雪が降ればいいんに」

両手を広げながら空を見上げて呟かれた彼女の言葉に、反応が少し遅れた。
寒過ぎて呼吸により空気を体内へ入れることすら辛い、酸素が足りていないのも反応が遅れた一因かも知れない、本当に雪が降りそうに寒かった。

「雪が降れば交通機関が麻痺する、結果として機能しない職業も増える、更に言えば事故も増える。損失が多いよ」

「ゆうは固いし」

「固くても、みんなが幸せな方がいいでしょ」

「じゃあ、私はやっぱり雪を見たいと思わなくちゃいけないし」

マフラーの首元に顔を埋めれば自分の吐いた息で温かい。

俺には奏の言うことが分からない、いつものことだけれども。
俺と彼女はあまりにも考え方が違う、まるで対極に立つように。

「雪が降ったら交通機関が麻痺する、でもそれは出来れば働きたくないって望む人にやむを得ない理由を与えてくれて仕事に行かなくて済むし。事故が増えるのは悲しいけど、お医者さんは儲かる」

「…ものは言い様だね」

「それに、雪は白くてうきうきする。楽しいし。楽しいって最強に幸せじゃん?」

奏は働くのが嫌だと言うから、それを幸せなこととして受け止められる。

俺だって働くことが好きで好きで仕方無くていつも働いていたいなどと言う訳ではない、休みだって欲しい、けどいつも休みというのも落ち着かないのだ、労働の先の休息こそ好ましい。

彼女は違う、いつも休みのようなものでも、それに居心地の悪さなど感じずに幸福として受け入れることが出来る。

ああ、なんだか俺達は全く違うなぁと思いながら、軽やかにはためく奏のコートの裾が白いのを見て、確かに白いものを見るのは心が弾むということは理解した。



END.


110410


以前サイト上でちまちま書いていたもの。


110525

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