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vihm


「なにを作っているの?奏」

雨続きでどうにも引きこもっていると思ったら、彼女は自分の部屋でいそいそと工作に励んでいるのだった。

「と言っても見ればだいたい分かるけど。それはてるてる坊主?」

「お察しのとおりだし、ゆう」

悠へ背中を向けたまま顔も上げず、奏は真剣な様子でティッシュペーパーを丸めていた。
あたりには、へたくそな顔をかかれたティッシュペーパーの固まりが、あちこちに散乱していた。

「しばらく見ないと思ったら、なにをしているんだか…」

「ばかにするんじゃないし。こいつは私には死活問題なんだから」

漸くこちらをむいて、彼女が言った。
その鼻にネームペンのインクが線をつけていたけれど、結構愛らしかったので、彼はなにも言わなかった。

「死活問題って?」

床じゅうに転がるてるてる坊主を踏まないように気を付けながら、悠は部屋の中に足を踏み入れた。

「ここんところ、雨ばっかり続いてるでしょ」

「それでてるてる坊主なんか作って晴れ祈願?」

「そうだし。もう雨なんかうんざり」

「あれ、かなは雨が嫌いだったっけ」

「嫌い。だって、外には行けないし、気分は塞がるし、尻尾の毛はこう!」

憤ったように言った彼女の尻尾の毛は、潤う梅雨の湿気を含み、それはそれは大量に膨らんでいたのであった。

「……ぷっ」

「わ、笑ったしっ!酷いし、ゆう!」

半泣きで奏がわめくものだから、悠はあわててごめんごめんと謝った。

「でも、そんなことをされちゃ俺は困るなあ」

「…どういうことだし」

「俺は、雨が大好きだよ」

彼はにっこり笑い、てるてる坊主に埋もれる彼女の横に座った。
そして、肩を組み、歌うようにこう言った。

「だってね、雨が降ると奏と二人家にいられるし、だから勿論気分は上がるし、そしてなにより、奏の尻尾の毛が俺好みに膨らむからね」

いとおしげに彼女の尻尾の毛へ指を差し入れ、彼はうっとりと目を細めた。

「かなのふわふわの尻尾の毛が、俺大好きなんだよね。君の尻尾の毛の量が増えるのは、大変喜ばしい。だから雨が止んでくれては困るんだなあ、これが。どう、分かった?奏」

悠が得意げに言い終わるか終わらないかのうちに、見事な拳がかれの鼻っ柱に入っていった。


ちなみにその日、雨は夜まで降り続いたが、彼の家の窓にはなにもぶらさがる様子はなかったそうである。



END.


110525

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