Vanilla | ナノ




niskotor


昼の休みは大抵奏と悠と一緒に昼食をとる。

場所は、室内だったり外だったり様々だけど、この日は外だった。
少し遅れて外の広場にやってきた昂輝は、ふたりを見つけて声をかけた。

「おー、奏、悠」

弁当を引っさげてふたりに歩み寄って、思わず息を殺した。

そこには先に食べ終わったんであろう弁当と、ふたりの姿があった。けれど、ふたりは寝入っていてぴくりとも反応しない。
ふたりフェンスに並んでもたれ、互いによりかかるように眠っていた。
どちらも表情はひどく穏やかで、それを邪魔するのははばかられた。


「めっずらし」

思わず出た声をてのひらで押しとどめて、昂輝はその場に腰を下ろした。
かぱりと弁当をあければ、仕出し弁当かというような彩り綺麗な弁当が顔を出す。
和食しか入ってないそれは、彼のこだわりでもある。
もう少し気を抜いて作ってもいいとは思いつつも、どうせならと作ってしまう。

ぴゅうと通り抜けていった風が思ったよりも冷たくて、外での昼食はまずかったかもしれないと空を仰ぐ。
少し先にみえる雲は、濃い影を落として重そうだと思った。


「雨、降るかな」

この広場を避けてくれないだろうかなんて、途方もないことを考える。せめて昼休みが終わるまでは、このふたりをこのまま寝かせといてやりたいなんて思うのだ。


「…………」

出汁巻き卵を口に放り込み、箸をくわえたまま昂輝はおもむろに上着を脱いだ。
こんなものでも、ないよりはマシだろうと奏と悠の間にかけようとして、悠がじろりと睨んできた。


「あ、悪い。起こしたか?」

まだ熟睡状態の奏を気遣い小声で聞けば、最初から起きてたと返された。

「昂輝の足音は騒々しいんだよ、起きるよ」

「つーか、悠の場合奏以外が近づいたら普通に起きそうだよな。忍者みたいにさ」

笑って上着をふたりにかけて、昂輝は弁当を再び食べはじめる。

「悠も食うか?」

「いらない」

「そっか。まあ悠も弁当は手作りだしな、奏のついでなんだろうけど」

「一々煩いな。奏が起きるだろ、ちょっとは黙れ」


奏を気遣いトーンを落とした悠の声は優しい。

奏の傍にいる悠は、常より何割増しか優しくなる。それは言葉とか態度とかではなく、空気が。
冬場に食べる鍋の蓋を開けたときのような、ほんわりとした温かさだ。コタツに置き換えてもいいかもしれない。

たまにあてられて、くすぐったくてたまらなくなるけれど、ふたりの空気が昂輝はたまらなく好きだった。


「ははっ、大丈夫だって。奏は起きねーよ」

なにを根拠にと目顔で問われたが、昂輝は答えなかった。
だってそんなの、わざわざ口に出すことほど野暮なこともないだろう。

悠がとなりにいる状況で、奏はきっとどんなときよりも安心して眠れるのだ。奏の顔をみていればよくわかる。
奏の傍にいることで、悠の空気は余計に丸くなるし。悠の傍にいるだけで、奏はいつもよりも素直になっている。
そうしたら、みんな嬉しくなって昂輝も楽しくなって、幸せな気分になる。


「そんなお前らだから、好きなんだよなぁ」

昂輝の呟きに、悠は理解出来ないという顔をしたが、昂輝は気にせず弁当を平らげる。



昼休みの残りの十数分。せめてそれまでは雨が降らなければいい。



END.


100613に以前のMemoで載せたもの。

初めて昂輝くんを書いた話。


約1年越しにサイトに載せる。


110525

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