真綿で首を絞める 5


「ライム、聞いて」


そ、と伸ばされた手。
いつもなら優しくて暖かくて大好きなザクロの手も、今の僕には違う生き物みたいに見えた。

僕のことを摘みだして、どこかに投げ捨ててしまうような錯覚。
いや、きっとこれから起こる現実。


「いやっ…!」


僕はそれが怖くて怖くて、ザクロの手から逃れるように後ずさる。
それでも近付いてくるザクロから必死で逃げる。

だってあの手に捕まったら、僕はまたいらないって言われる。
母の時も僧侶様の時も、僕の手をひいた人は僕を僕として見てくれなかった。
僕なんかいらないって言う。

ザクロもきっとそう。
いらないって。
僕なんかもう必要じゃないって言うんだ…!

段々息が出来なくなって苦しくなる。
上手く息が吐けない。
吸ってばかりで苦しい、苦しい。

とん、と背中に何かが当たる。
どうやら下がりすぎて壁まで来てしまったらしい。

戸は右側に、窓は左側に。
後ろは壁で前には近付くザクロ。

やだ、やだやだやだ。

ザクロに捨てられたら、お前なんかもういらないって言われたら、僕は死んでしまう。
僕は切れ切れな呼吸の中、立てた膝に頭を埋める。
ザクロに近づいて欲しくなくて、ふらふらと両手を振り上げながらも必死でザクロに懇願した。


「お願い、お願いします、どうかもう僕を捨てないで、おもちゃでいいから側において、」

「ライム…?待って、違う、落ち着いて」

「お願い、お願い、捨てないで、捨てないで、僕のこといらないなんて言わないで、価値がないなんて思わないで、僕を見て、何でもするから、我が儘言わないから、言うとおりにするからだから」

「ライム…っ、」


がし、と右手を掴まれた。
その瞬間、僕を捨てた母と、僕を拾って犯した僧侶とその他の僧達の顔が一遍に頭の中に蘇った。
そして最後に浮かんだのは、ただ一つ。


僕は、いらない。



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