観念としての孤独 5


「…辛くなったら、すぐ僕のところに来てね。僕だって、ライムのこと、大事に思ってるんだからね」

「……」

「僕達は家族で兄弟、だろ?」


穏やかな声音にこくんと自然に頭が動く。
耳元でキクさんがふ、と笑ったのが分かった。

なんでかなぁ。
大事にしてくれてるって、分かってるのに。
なんで僕はそれを信じられないのかなぁ。
なんでキクさんに応えられないのかなぁ。

きゅ、と腕をキクさんの背中に回す。
ありがとうの気持ちと、ごめんなさいの気持ちを込めて。

しばらく僕等は抱き締め会っていた。

それを彼に見られてたなんて、知らずに。




「…お前達、何してんだ?」


廊下の真ん中で抱き合う僕等にかけられた声。
キク先輩の肩越しに見えたのは、キク先輩と同室のエルレイドのヨモギ先輩。


「ふふー、兄弟水入らずのスキンシップ、ヨモさんは駄目だよー」

「や、別にいいし」


キクさんに抱き締められたまま、二人の会話を聞く。

そして気付く。
僕に話す時とは違うキク先輩の雰囲気と、ヨモギ先輩の雰囲気は酷く似ていることに。

僕はこの二人はお互いに特別なんだと、何となく分かった。
そして、もう一つ、キクさんのこと、どこか信じられないのも分かった。

キクさんの一番は僕じゃないからだ。

キクさんの一番はきっとヨモギ先輩で。
ヨモギ先輩の一番も、キクさん。
だから二人は似ているんだ。


羨ましかった。
僕もザクロの一番に、してもらいたかった、な。

頑張って、ザクロの言うことを聞けば、またいつの日か僕自身を必要としてくれるだろうか。



キクさんとヨモギ先輩と別れて部屋に向かう。
気さくに僕に話しかけてくれるヨモギ先輩はとても優しくていい人。
キクさん、よかったね。

さぁ、僕は僕に出来ることをしよう。
帰ったらザクロに抱いてもらおう。


きゅ、踏みしめた床板の軋んだ音が、何だか悲しく泣いている様に聞こえた。



3話 END.


120115

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