観念としての孤独 4


本当は、昨日。
眠れなかった。

ザクロが眠りについてからも、ずっとザクロに背を向けたままどうしてか震える自分の体を必死で抱き締めていたら朝になってしまった。

笑う僕を見てキクさんは目を見開いて動きを止めた。
その動作が、朝に見たザクロのそれと同じで。
一体何なんだろう、と思っているとキクさんはライム、と小さく呟いた。


「…ザクロと、喧嘩でもした?」

「…え」

「なんかさ、元気ないから。それにいつも一緒の君達が今日は別々に行動してたし…。何かあった?」


まるで見透かされたかのような言葉に、急に目の前のキクさんが怖くなった。

ザクロとの仲は、キクさんにも話していない。
だから大丈夫、僕が何も言わなければ、大丈夫。

ザクロに、抱かれたことは、言ってはいけない。
キクさんは優しいからきっと悲しむ。

自分に強く言い聞かせ、僕はまたキクさんににっこり笑った。


「今日はたまたまですよ。大丈夫、何もないですから」

「ライム、」

「僕何だか疲れちゃって。今日はもう失礼しますね」


やんわりと拒否の意を込めれば、察してくれたのかキクさんはそれ以上何も言わなかった。
心の中で、小さく僕は謝る。

それじゃあ、とその場から離れようとした時、腕を引かれ強くキクさんに抱き締められた。
ふわりと香る薬の匂いとキクさんの、匂い。
自然と微睡むその懐かしい匂いに僕は目を閉じる。

キクさんの家に引き取られてから、しばらく僕は夜中に発作を起こした。
行かなきゃ、行かなきゃ、とどこに行くでもなく泣き叫び、辛く苦しい記憶に苛まれて、毎日眠れなくて。
そんな僕をキクさんは辛抱強く抱きしめて一緒に寝てくれた。

だからキクさんの匂いは酷く僕を安心させる。
とくん、とくんと心地よく刻まれる心音と暖かな体温。
優しく背中を撫でられて、知らず力の入っていた体が楽になる。



[ TOP ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -